ターニングポイントは「身内」。~セリエAを変えるルーキー監督~

セリエA コンフィデンシャル

ターニングポイントは「身内」。
~セリエAを変えるルーキー監督~

酒巻陽子 = 文
text by Yoko Sakamaki
photograph by Uniphoto Press

 ACミランは、2001年11月より長きに渡って続いたアンチェロッティ監督時代を終焉させ、技術部長を歴任したレオナルド・ナシメントをチームの指導者に迎え、新たな道を歩み始めた。現役時代は不世出の司令塔としてその名を轟かせたレオナルドではあるが、指揮官としての経験が全くないことから、当初その手腕は不安視された。ところが、あるエピソードがそんな疑念を払拭させることとなる。

 グアルディオラ監督によるバルセロナ3冠達成だ。

 リーグ制覇、そして欧州一のタイトルをも手にしたルーキー監督による偉業がイタリアを震撼させた。レオナルド新監督就任を発表したミランと同じく、ユベントスも指導者としての経験は前季の2試合しかないチロ・フェラーラを監督に正式に任命。トップチームの監督未経験のグアルディオラが欧州サッカー界の頂点を極めた実情は、上述のイタリア名門クラブの「名将へのこだわり」を大きく覆したといえる。最強バルセロナの骨子が「身内」によるものと見たミランとユベントスは、長年チームで同じ釜の飯を食べてきた者に「チーム再建」を託すことがタイトル結実の起爆剤になると考えたのだった。

 身内による指導法がターニングポイントとなるのか? セリエAにて最も大きなカギを握るとされる2人の「ルーキー監督」のサッカー観に迫ってみた。

激戦の欧州サッカーで不可欠なのは「強靱なフィジカル」。

 攻めのバルセロナが、グアルディオラ監督就任後は強靭な肉体を基本とし堅実な動きをベースにしたサッカーに変貌したように、レオナルド新監督は就任会見の席で「現代サッカーにおいて不可欠なのは強靭なフィジカル」と発言。セリエAでは組織力が、欧州カップ戦では体を張った勝負が要求されるため、殺人的日程の中でも選手たちが存在感を見せるには、90分間を戦いきる体力を持つことが第一。ミランの今年のUEFA杯ブレーメン戦、また2季前の欧州チャンピオンズリーグでのアーセナル戦の敗因は、走る能力が足りなかった点にあったと判断。イタリア代表リッピ監督のスタッフを歴任し、テクニカルな要素以上にフィジカルこそが無敵の軸と心得ているフェラーラ新監督も「選手個々に体幹の強化」を口にした。体が軽ければ積極的にプレーできる。ウェイトトレーニングより柔軟な身体作りにこだわるのは世界基準ということなのだろう。

大物頼みの方針を捨て、チームの結束力を重んじる。

 昨季、ロナウジーニョとデコを放出したグアルディオラ監督の大胆な姿勢は「異端」と見られた。ところが、「誰が点を取るのかと考えると、メッシの力量に期待する」という言葉どおり、結局その信念は吉と出た。ミランがMFカカを手放し、ユベントスがFWトレゼゲ、MFシソッコなどの放出を画策しているのも、選手間に自然発生する厳しい生存競争よりチームの結束力を重んじているからなのが分かる。

古巣への敬意と愛着が、チームの改革を推進する。

 バルセロナの指揮官同様、レオナルド、フェラーラ新監督に共通する点は、現役時代にプレー経験があるチームの監督業であり、強い愛着を抱いていること。近年、両クラブは財政面では多額の収益を上げたとは決していえない状況で、彼らは自分たちのチームが抱える不安材料を理解し、置かれた立場をよくわきまえている。余分な金をかけずに一大改革を行うこと。スカウトの眼力の強化に加え、下部組織から逸材を洗い出すといったように節約志向を最優先することを早くも明言している。

 昨シーズンとはスタイルも大きく変わり、インテルの、そして欧州トップクラブの厄介な敵になると噂されるミランとユベントス。そんな新しい「セリエAの名門」を操縦するルーキー監督たちが、新シーズンのセリエAを燃え上がらせる。

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(更新日:2009年6月14日)

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筆者プロフィール

酒巻陽子

イタリア在住十数年。'90年のW杯イタリア大会でサッカーに目覚め、三浦知良選手のジェノア入りをきっかけに取材するようになる。現在、東京中日スポーツの欧州サッカー担当をつとめる。トルドとバティストゥータがお気に入り。

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