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震災で麻痺した東京の都市機能。
自転車通勤を始める人に5つの提言。 

text by

疋田智

疋田智Satoshi Hikita

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photograph bySatoshi Hikita

posted2011/03/19 08:03

震災で麻痺した東京の都市機能。自転車通勤を始める人に5つの提言。<Number Web> photograph by Satoshi Hikita

地震情報に見入る人々。

 私は次の放送の準備にある程度目処が立った後、自転車で帰宅することにした。他のスタッフたちは会社に残る。業務もさることながら、帰宅の足がないからだ。

 もちろんJR各線、私鉄線、東京メトロ、都営地下鉄など、すべての路線が止まっている。

 が、私の場合はむろん自転車だ。

 局の外に出ると、TBS前の広場(赤坂サカスというやつだ)には、行き場を失った人々が大勢集まっていた。みなオーロラビジョン(超大画面テレビ)に映し出される地震情報を見ている。

 本来は金曜の夜だ。これから華やかな時間が待っているというような時間帯である。

 しかし、今はそれどころじゃない。オーロラビジョンの中では、続々と東北の惨状が映し出されてくる。被害のとてつもない実態が次第に明らかになってくる。

 上空にはヘリコプターが舞い、どこからか救急車のサイレンも聞こえる。東北とは違って、もちろん東京のビルが壊れたりしているわけじゃない。しかし、どこかが「いつもと違う」。

 何か雰囲気がきな臭い。気のせいか、街を歩く人々が皆「これからどうすればいいんだろう」との迷いを持っているように見える。

 ある人は、ガードレールに腰掛けて所在なさげにタバコを吸い、別の人は、建物に背をもたれかけながら、つながらない携帯にメールを打っている。

 何か実体のない、ぼうっとした焦りや不安のようなものが、濃厚に漂っている。その焦燥感や不安は、たしかに正しかった。

タクシーもバスも来ない。

 私は自転車に跨り、赤坂を後にした。

 六本木一丁目あたりに至って、次第に気づいてくる。

 とにかく人だらけだ。どこを目指しているのか、スーツ姿の男女が、列をなして、歩道上をどこかに向かって歩いている。

 地下鉄の駅には入らない。地下鉄は止まっていて復旧の目処が立っていないことを知っているからだ。

 見ていると、最初の目的地はタクシー乗り場だった。しかし、その行列のあまりの長さに比して、タクシーの数は少ない。いや、ほとんどいない。

 渋滞がひどいのだ。目を車道側にむけると、私が見ている中だけでも、目の前でみるみる渋滞が加速しているのが分かる。赤坂に出た頃はまだまがりなりにも動いていたのが、六本木あたりでほぼ停まってしまった。

 帰宅群衆(時間が経つにつれ、スーツの男女は群衆という名にふさわしい数にふくれあがっていた)が、集まった二つ目のスポットが、バス停だ。

 ところが、そのバス停にもバスがいない。長大な行列が、いたずらにのびていくばかりだ。

【次ページ】 JRの駅をめざす人々。

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