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「観客は僕を驚かせた」“なぜかファン人気がない王者”ジョコビッチが決勝のベンチで涙した理由〈全米OP〉

posted2021/09/14 17:05

 
「観客は僕を驚かせた」“なぜかファン人気がない王者”ジョコビッチが決勝のベンチで涙した理由〈全米OP〉<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

全米OP決勝でメドベージェフに敗れ、ジョコビッチは史上3人目となる年間グランドスラムを逃した

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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Hiromasa Mano

 史上3人目となる年間グランドスラム(四大大会全制覇)は夢と消えた。あと1勝と迫った全米の決勝で、ノバク・ジョコビッチはダニル・メドベージェフに完敗。四大大会シングルスの優勝は20回でロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダルに並んでいたが、単独トップに立つことはできなかった。

「この5、6カ月間は感情的にも非常に厳しい時期だった」

 敗因は誰の目にも明らかだ。メドベージェフが「彼はベストな状態ではなかった」と話したように、いつものジョコビッチらしさが影を潜めた。序盤から硬さが目立ち、アンフォーストエラーが増えた。立ち上がりが悪くても第2セット以降、別人のようにプレーするジョコビッチの姿はこれまで何度も見られたが、この決勝では第2セットに入っても緊張が取れなかった。

 メドベージェフのプレーは独特で、弾道の低いフラット系のボールをベースライン近くに突き刺してくる。リスクのあるショットを堅実に打ち続けられるのは、生まれ持った才能だ。このボールにジョコビッチが苦しんだのは事実だが、それよりプレッシャーの影響だろう。

 不思議なことに、試合後の記者会見でプレッシャーについて直接尋ねる質問はなかった。敗因としては、あまりにも自明だったからだろう。だが、ジョコビッチは自ら精神面の影響を語った。

「この5、6カ月間は感情的にも非常に厳しい時期だった。グランドスラムに五輪、母国ベオグラードでもプレーした。この間に蓄積されたすべての感情が、ひとつになって押し寄せてきた」

ジョコビッチが背負った“歴史の重圧”

 この7月、ウィンブルドンの優勝インタビューでは、プレッシャーについてこう語っていた。

「第1セットはいつもより少し緊張していた。ウィンブルドンの決勝の大舞台で、歴史がかかっていることで緊張してしまったのかもしれない」

「歴史」とは年間グランドスラム(この時点では五輪金メダルを含むゴールデンスラムの可能性もあった)を指す。勝ったからこそ、重圧の影響を明かしたのだろう。だが、今大会の開幕前には、プレッシャーを引き受ける覚悟を雄弁に語った。

「僕はプレッシャーに耐えることもできる。何度も経験してきた。プレッシャーは特権なのだ。グランドスラムで優勝して歴史に名を残すために、毎日毎日、人生を通して励んできたんだ。僕にはチャンスがある、ならばそれを生かしたい」

 決勝進出を決めると、こう宣言した。

【次ページ】 決勝のベンチで震えていたジョコビッチ

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