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戦力外、独立リーグも経験した26歳。
ロッテ三家に響いた堀コーチの言葉。

posted2020/05/29 11:00

 
戦力外、独立リーグも経験した26歳。ロッテ三家に響いた堀コーチの言葉。<Number Web> photograph by Kyodo News

2019年7月21日、プロ入り初ホームランを放った三家和真(右)。戦力外や独立リーグを経た'16年オフ、ロッテにテスト入団した。

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永田遼太郎

永田遼太郎Ryotaro Nagata

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 その朝、彼は慌ただしく準備を進めていた。

 2019年シーズンの開幕から3カ月が過ぎようとしていたころ、千葉ロッテの三家和真(みけ・かずま)は一軍昇格が決まると、すれ違うチームメイト、スタッフ達から次々と激励の声をかけられた。

「頑張ってこいよ」

「ありがとうございます!」

 いつものように気持ち良いほどの笑顔。

 ファームが練習するロッテ浦和球場では、日が暮れるまでバットを振り、ボールを追いかけ、最後まで球場に残っている1人だった。上(一軍)から声がかからず、心が折れそうになるときも、笑顔だけは絶やさずにいつも前向きに過ごしていたことを、その場にいた誰もが知っていた。

「おめでとう! やっと一軍に呼ばれたね」と筆者が声をかけると、「いやいや、まだ呼ばれただけなんで。まだ本当に昇格かどうか分からないですよ」とその言葉で浮き立つ気持ちをぎゅっと引き締めた。

 三家は期待半分、不安半分の面持ちで一軍が戦う神宮球場へ車を走らせていった。

三家の心に響いた堀コーチの言葉。

 2年ぶりの一軍出場となった6月21日から9月12日までの約80日間帯同。2017年の初昇格時の4試合を大きく上回る25試合に出場した。7月3日にはプロ入りから8年目にして待望のプロ初安打を、21日は初本塁打も記録。21打数6安打、5打点、打率2割8分6厘の好成績を残し、まずまずのインパクトを残した。

 しかし、プロの世界は甘くない。故障が癒えた別のレギュラーメンバーと入れ替わる形で9月13日には一軍登録を抹消された。

 そんな彼に、二軍の堀幸一打撃コーチはこんな言葉を伝えた。

「お前たちみたいな立場の選手は一軍に行ったら“3球しか”ない。でも、ベテランや一軍で実績を残している選手からすれば“3球も”ある」

 その言葉の意味を彼は深く考えた。一軍に定着できない選手は、目の前の1球、1打席が勝負である。与えられた僅かなチャンスをモノにし、首脳陣に、「次も使いたい」と思わせるインパクトを残し続けなければいけない。

 さらに言えば、プロの一軍で活躍する選手は皆、甘い1球を確実に仕留めるだけの技術を持っている。そうして選別された人間のみが生き残っていく世界。そのために今、何が足りなくて、今後何を補っていくべきなのか。自身の頭に、そして体に叩き込みながら、三家は2020年のシーズンに向け、着々と準備を進めた。

【次ページ】 2年で戦力外、独立リーグを経て。

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