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あと1/4回転。羽生結弦が憧れの地で
4回転アクセルに挑んだ理由とは。

posted2019/12/11 10:30

 
あと1/4回転。羽生結弦が憧れの地で4回転アクセルに挑んだ理由とは。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

4回転アクセルは“王様のジャンプ”と言う羽生。「ジャンプだけじゃなくてフィギュアスケーターとして完成させられるものにしたい」とも語った。

text by

野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

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Asami Enomoto

 トリノで開かれた2019年GPファイナルは、羽生結弦にとって運命的な試合になった。

 それは、順位や得点といった期待を遥かに超える、奇跡的な挑戦。フリー前日の公式練習で、初めて4回転アクセルを公式の場で練習した。その回転速度はほかの4回転とは別次元で、一見して、人類の限界に挑んでいることが伝わってきた。

 なぜ彼はこの日、4回転アクセルに挑んだのか。そしてつかんだものとは――。

 トリノの会場パラベラ。赤い壁にオリンピックマークが燦然と輝いて見える。2006年にエフゲニー・プルシェンコが金メダルを獲得した場所だ。羽生がカナダ・トロントから到着したのは12月3日。翌日の初練習では、興奮気味に話した。

「やっぱり、会場自体にすごい大きなエネルギーがあるなっていう風に思っています。自分がすごくスケートにのめり込んでいた時期の五輪があった場所で色んな思い出があります。

 力をもらいながら演技したいです。『ここ(当時テレビで)見ていたところだな』って思って、アップするときにワクワクが止まりませんでした」

まるで11歳の少年に戻ったかのよう。

 練習後には、壁に刻まれたオリンピックマークを携帯で撮影するなど、まるでトリノ五輪を見ていた11歳の少年に戻ったかのよう。チャレンジャーの精神が、いつも以上に湧き出ている様子だった。

 ところが万全の状態で挑んだはずのショートは、4回転サルコウ、トリプルアクセルを成功させながらも、4回転トウループでステップアウト。得点は97.43点。

 パーフェクトに演技したネイサン・チェン(米国)と12.95点差もついてしまった。会見では、いつもなら巻き返し宣言をする彼も、かなり苦しそうな表情だった。

「この点差はすごく大変だとは思うけれど、フリーに向けて色々考えて、僕に出来ることはなにか、なにをすべきなのかを考えて1日1日過ごしたいです」

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