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追悼・小出義雄/全ランナーへの言葉。
「笑顔で走れば結果はついてきます」

posted2019/04/25 13:30

 
追悼・小出義雄/全ランナーへの言葉。「笑顔で走れば結果はついてきます」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

インタビュー中も終始穏やか、ニコニコした表情で答えてくださった小出義雄監督(2014年当時)。

text by

小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

PROFILE

photograph by

Nanae Suzuki

 日本の女子マラソン界を長年にわたって導き続けた名伯楽、小出義雄元監督。自らが設立した佐倉アスリート倶楽部では3月末まで現役指導者として現場に立ち続け、運営を後進に引き継いだばかりでの、突然の訃報でした。
 Numberでは、氏の数多くの偉業を偲び、特別に過去記事をWeb上で再公開します(初出『NumberDo RUN&EAT』2014年春号)。すべてのランナーに向けた、愛情溢れるアドバイスが綴られたこの記事、ぜひご一読下さい!

 陽気な口調で切り出す。

「みんな楽しみにしてるんだよね。完走できるかしら。どう走ろうか。初マラソンで一番大事なのはワクワクする気持ちだよ」

 これまで数多くのランナーを育て、走る楽しみを説いてきた小出義雄監督。ひるむ背中を押すような、“小出節”は健在だ。

 初マラソンに向けて、マラソン初心者が足もとをすくわれないためにはどんなことに注意すべきか。アドバイスを求めると、世界陸上メダリストの例を挙げてこう語った。

「福士(加代子)がこの前、僕のところに聞きに来たの。『監督、どうすればマラソンを完走できますか』って。そんなの簡単な話で、練習で長い距離を走ること。スピードを身につけるよりもまずは、フルマラソンの距離に耐える足を作らなきゃ」

 マラソンは練習もせずに完走できるほど甘くない。週1、2回のジョギングだけでレースに挑むと、手痛いしっぺ返しを食らうだろう。ある程度の走り込みは、たとえ初心者といえども欠かせないのだ。

 とはいえ、すべてのランナーが大会までに十分な走り込みができるとも限らない。むしろ、初心者ほどどんな練習をして良いかわからず、不安を抱えているのではないか。

「マラソンは30から35kmを超えてからが本番」

「だったらね……」

 そう言うと、監督は数ある引き出しの中から初心者向けの助言を披露してくれた。

「いいかい、初マラソンでもし自信がなかったら、最初はゆっくり、ゆっくり行くの。最初の5kmは一番遅く、次の5kmはほんのちょっとだけ速く、30kmまではどれだけ調子が良くても決してペースを上げ過ぎないこと。マラソンは30から35kmを超えてからが本番なんです」

 初心者のみならず、マラソンに挑むランナーのもっとも陥りやすい罠が前半で飛ばしすぎることだという。

 体がよく動く前半は誰もがタイムを稼ぎたくなるが、そこを敢えて抑えることによって余力が生まれる。ゆっくり走ることはタイムをロスするようにも思われがちだが、実際に後半で足が止まってしまうとそこからの回復は非常に難しい。たとえ歩くようなスピードでも、最後までしっかり足を動かし続けた方が得策なのだ。

「だから、わりとマラソン初心者は失敗しないんです。経験がない分、慎重にいくでしょ。むしろ2回目以降の方が失敗する確率はずっと高い。次はもっと良い記録を出そうと思って、最初から飛ばしちゃうから」

 レース本番では、30kmまでにどれだけ余力を残すかが鍵となる。

【次ページ】 フォームから入ったらダメ。マイフォームが一番だよ。

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