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平成10年、万年Bクラスのホークスを
率いる王監督が思わず漏らした「本音」。

posted2019/04/22 11:00

 
平成10年、万年Bクラスのホークスを率いる王監督が思わず漏らした「本音」。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

王貞治=ストイックという固定観念は、この偉人の一面しか捉えていない。自由で奔放な人でもあるのだ。

text by

石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

PROFILE

photograph by

Hideki Sugiyama

平成の30年間、野球取材の最前線に身を置き、「Sports Graphic Number」に寄稿を続けてきた日本を代表するベースボールライターが、これまで手がけた作品を「1年1人」のコンセプトでピックアップした『平成野球 30年の30人』が発売中。今回は、その30本の中から平成10年(1998)の作品を特別公開する。

世界のホームラン王・王貞治は、現役引退後巨人の監督を5年務めたのち、平成7年、福岡ダイエーホークスの監督として球界に復帰した。ホークスは当時、20年以上優勝から遠ざかり、万年Bクラス球団として飛躍の緒をつかめずにいた。王ダイエーも、5位、6位、4位となかなか結果が残せない。そんなタイミングでのインタビュー。常勝軍団・ジャイアンツの野球を知る王監督の、当時のホークスへの「本音」が炸裂した――。(Sports Graphic Number 441号収録)

 去年の7月の終わりかな。福岡ドームのロッテ戦で、武田一浩がジェイソン・トンプソンに一発打たれてね。あの瞬間、ガラスにピシッとヒビが入った感じがしたんだよ。そこまで、一生懸命、積み上げて、積み上げて、そこまでやってきたものが、ガラガラガラと煉瓦が崩れるみたいに崩れてね……あの感じ、まさに、砂上の楼閣という感じだったな。去年の武田は開幕投手だし、それだけの期待をしてたでしょ。彼は、俺にとっては下柳剛を出してまで獲った選手だったし、思い入れもあったからね。

<昨季、オールスター明けの近鉄戦に3連勝を飾って、首位オリックスに1・5ゲーム差。王ダイエー、悲願の初優勝に大接近を果たした、まさにその直後のことだった。7月29日のロッテ戦、武田が浴びた一発から、まさかの逆転負け。この日以降、王ダイエーは転がる石のように、アッという間に優勝戦線から後退してしまった。手が届きそうで、決して届くことがない1・5差。周囲はただの一敗と受け止めていても、厳しい勝負の世界で己れを研ぎ澄ませてきた王貞治は、あの瞬間本能的に、己れのチームの脆さを感じ取っていたのである。>

「本当なら俺とかミスターは……」

 結果的には3年連続でBクラスだし、卵をぶつけられたこともあったからね。でも、勝負の世界は結果がすべてだから、しょうがないとは思うけどね。もちろん我々も勝ちたくてやってはいるんだけど……まあ生卵は行き過ぎだけど、それは今の世の中、ナイフ事件も含めて、すべて行き過ぎなんだよな。

 本当なら俺とかミスターは現役を終えたら山に籠もるべきだったんだ。山口百恵みたいにね(笑)。下界におりてきてチョロチョロやってるから、いろいろ言われちゃうんだな。でも俺はね、選手たちに日本一になったときのビールかけの、あの感激をどうしても味わわせてやりたいんだよ。それだけなんだよ。そうすればイヤなことだって全部消えちゃうんだ。俺は、何回も味わえたからね。今でもね、夢に出てきたりするんだ、そのシーンが。選手たちがワーッと騒いで、ファンの人が喜んでくれて、何ともいえない、いい光景だよ。

 でもウチの選手たちは、南海時代から20年も続けてBクラスだから、優勝なんて遠い夢だと思ってる。でも、夢じゃないんだよ。現実にできるんだと思わないとね。去年は自分たちと一緒にやっていた西武が日本シリーズに出てるわけだよ。ただ、出るには出るなりの苦難がある。それを乗り越えないといけないし、そのためには逃げちゃいけない。今までは、ウチの選手たちは逃げても生きてこれたわけよ。野球選手として。だけど、勝つためにはやっぱり逃げないでいかなきゃ。勝つって、そんな簡単なことじゃないんだよ。

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