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安部裕葵はレアルすら通過点にする。
19歳らしさより、鹿島らしさを。

posted2018/12/17 12:15

 
安部裕葵はレアルすら通過点にする。19歳らしさより、鹿島らしさを。<Number Web> photograph by AFLO

鹿島にまたしても現れた新星フォワード、安部裕葵(左)。すでに全世代からの注目を集めつつある。

text by

寺野典子

寺野典子Noriko Terano

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AFLO

 安部裕葵と話をしていると、彼がまだ19歳ということを忘れてしまう。

 丁寧な言葉づかいだけでなく、気配りや漂わせる雰囲気が落ち着きと冷静さに満ち溢れているからだ。

 12月15日クラブW杯の準々決勝、鹿島アントラーズ対グアダラハラ(北中米カリブ海代表/メキシコ)。安部はベンチでキックオフを見ていた。長期リハビリから復帰したレアンドロに先発の座を譲っていたのだ。グアダラハラは、開始早々に先制点をマークする。

「前半から、前を向いて仕掛けてきた。前半のプレー強度には正直驚きました。でも冷静に考えて、あれが90分続くとは思っていなかった。0-1なら全然いける。押し返せば相手の強度も落ちるだろうと」

 後半開始早々からレアンドロに代わって安部がピッチに立つと、彼の言葉通り鹿島が相手ゴールへと押し返していく。前から守備をするのではなく、守備ブロックを作り守る形に変更したことで、容易にボールを保持することができるようになったのだ。

 49分にGKクォン・スンテからのキックがセルジーニョに渡り、土居聖真がキープし、前線に飛び出した永木亮太が同点弾を決めると、69分にはセルジーニョのPKで逆転。グアダラハラの勢いは消えかけていた。しかし、彼らの闘志はまだ消えてはいない。

19歳とは思えないクレバーなファール。

 83分に前線でセルジーニョを倒してボールを奪うと、そこからカウンターを狙ってきた。しかし、ハーフウェーライン近くでその攻撃は寸断される。安部がファール覚悟で飛び込んできたのだ。いわゆるプロフェッショナル・ファールだった。

 倒された選手は立ち上がると安部に詰め寄ったが、両手をあげた安部はその抗議に一切反応しなかった。審判からイエローカードを出されても、平然とそれを受けていた。

「本当はノーファールで奪いたかったんですけど、審判が邪魔だった。審判がいなければ、普通にできたと思います。ファールをもらっても、ああいう風に冷静さを装うのは、チームメイトにいい影響というか、チームの雰囲気に対して効果があると僕は思っている。きっと、後ろから見ていても助かると思うので。

 もちろんノーカードのほうがいいですけど、ああいうプレーをすることでみんなが落ち着くことができると思うし、チャンスをつぶされた相手は落胆するだろうし。そういう気持ちになってくれればと。

 計算通りでした。僕のああいうプレーを受ければ、相手は熱くなる。でも僕がファイトする必要もないし、そこでファイトすれば、すでにイエローが出ているのでレッドになる可能性もありますから」

 相手のビッグチャンスを防ぎ、チームの悪い流れも断ち切る。そのうえ、時間を消費することにも繋がったに違いない。それを世界大会で普通に行った。19歳とは思えないクレバーなファールだった。

【次ページ】 高卒でプロになると決めていた。

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