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明石商・田渕翔は笑って夏を終えた。
「僕が泣いても仕方ないんで」

posted2018/08/11 16:30

 
明石商・田渕翔は笑って夏を終えた。「僕が泣いても仕方ないんで」<Number Web> photograph by Kyodo News

泥と涙という物語を拒絶するように笑いながら、明石商・田渕翔は自分のスタイルで甲子園で力を発揮しきったのだ。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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 最後のバッターになっても笑っていた。

「僕が泣いても仕方ないんで」

 8-9と1点差で迎えた10回裏、2アウト走者なし。「3番・ショート」の田渕翔の打球は、ショートゴロ。悠々アウトだった。それでも高校野球ではヘッドスライディングしがちなシチュエーションではある。だが、それもしなかった。

「ユニフォームを汚すだけなんで。しても意味ないかなと思って」

「打のチーム」全盛の中、明石商業と言えば機動力が売り。それを体現していたのが「3番・ショート」の田渕だった。身長162センチ、体重65キロ。体は小さいが、存在感はいちばん大きかった。

 これまでは1、2番を打つことが多かったが、勝負強さを買われ、この夏から3番に座るようになった。

 初回には一、三塁から本盗を誘発する二盗を見せ、直後、捕手が審判にスイングアピールをしている間に三塁を陥れた。

「相手のスキを突いて、でも、こっちはスキを見せないというのが明石商の野球なので」

 また、3ボールになると極端に低く構え、投手を揺さぶって2四球を選んだ。

「あれ、けっこう効くんですよ(笑)」

球場を見渡す余裕、そして力を発揮。

 もちろん、3番としての「本職」もこなした。

 4回表を終えた時点で1-7と大量リードを奪われた明石商だったが、4回に反撃に転じる。2点を返し、3-7と追い上げムードの中、なおも2アウト満塁の場面で田渕にまわってきた。

 打席に立つ前、スタンドを見渡した。

「すご過ぎましたね。レフトスタンドの方まで僕らを応援してくれていたので」

 明石商の応援スタンドはライト側だったが、地元チームの追撃に球場全体が沸き立っていた。

 そして、田渕はセンター前に2点差に迫る2点タイムリーを放つ。

「もう本当に楽しくて、自分以上の力が出ました」

 田渕はショートとしてもジャンピングスローで安打性の当たりをアウトにするなど、機敏な動きを見せた。

【次ページ】 「あいつだけですよ。いつも笑ってるのは」

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