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“ハーフ”アスリート増加の一方で。
日本が本当に多様化するためには。 

text by

及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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photograph byAbaca/AFLO

posted2018/08/11 10:30

“ハーフ”アスリート増加の一方で。日本が本当に多様化するためには。<Number Web> photograph by Abaca/AFLO

ドイツ代表引退を表明したエジルは、トルコのエルドアン大統領との2ショットが一部から批判の的に。

エジルやルカクが受けた移民差別。

 W杯終了から10日後の7月23日、ドイツ代表のメスト・エジルがSNS上で代表引退を発表した。そこには自身のルーツであるドイツとトルコへの思い、ドイツサッカー協会から受けた人種差別、ドイツメディアから受けた人種差別的な報道、そして代表引退の決意などが赤裸々に記されていた。

 その中で最も心に残ったのは、「勝った時にはドイツ人、負けた時はトルコ人と言われること」という部分。

 エジルはトルコ系移民の両親を持つ3世だが、本人は生まれも育ちもドイツ、生粋のドイツ人だ。イスラム教徒であることから試合前にコーランを唱えたり、トルコを訪問した際にトルコの大統領に謁見したことでドイツ国内から批判の声が高まり、今大会、ドイツが予選敗退した際には戦犯のような扱いを受けた。

 エジルが代表引退を発表したツイッター上には「代表なんかストレスになるだけだ。アーセナルファンは君の活躍を応援しているよ」など英語での優しいコメントもあったが、「お前なんかトルコ代表になってしまえ」など、ドイツ語で書かれた辛辣なコメントも並んでいた。

同じような境遇の人を救いたい。

 ベルギー代表のFWロメル・ルカクの米国メディア「Players Tribune(プレイヤーズトリビューン)」への投稿も深く考えさせられるものだった。

 生まれも育ちもベルギーにも関わらず、事あるごとに出身地を聞かれ、差別的な言葉を受けてきたルカク。「試合の結果が伴わなかったりすると、『コンゴ出身のベルギー選手』と呼ぶんだ」という言葉の奥には、自分の生まれ育った国に適応する努力をしても、拒絶される彼の深い悲しみ、悔しさ、失望が伺える。

 エジルやルカクが批判や炎上を覚悟で声をあげたのは、自身の辛さを理解して欲しいという考えに加え、同じような境遇の人たちを救いたい、と思いからだろう。

 国という単位を学校、職場、グループに変えて想像してほしい。仲間になるために必死に努力しているのに拒絶される気持ちを。一般社会では「いじめ」と呼ばれる行為が、状況によっては「人種差別」になる。

【次ページ】 人々の心に潜む優越性や劣等感。

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