オフサイド・トリップBACK NUMBER

本田圭佑の新天地オーストラリア。
現地の巨大な期待、そして裏事情。 

text by

田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2018/08/10 11:00

本田圭佑の新天地オーストラリア。現地の巨大な期待、そして裏事情。<Number Web> photograph by Getty Images

FOXスタジオでのメディア会見では、ビクトリーのマスカット監督、会長、Aリーグチェアマンが並び、本田圭佑への期待の高さが見えた。

躍進の陰には監督交代があったが。

 ロシア大会を現地で取材していたベテラン記者、グラハム・デイビスは、その理由を次のように分析する。

「やはり要因としては、ポステコグルーの後任としてチームを指揮したオランダ人、ベルト・ファンマルバイクの手腕に負うところが大きいと思う。

 彼は華のあるサッカーをするタイプじゃないが、守備を固めて手堅くカウンターを狙うアプローチには定評がある。それに何より世界との戦い方を知っている。

 実際、今年1月に監督に就任すると、チームの方向性を180度変換した。先進的な3バックを廃止して、オーソドックスな4-4-2にシステムを変更しながら、大会直前の強化合宿でも、フィジカルの強さとスタミナを武器に戦う集団への原点回帰を図った。

 決勝トーナメントに進めなかったのは残念だが、チームが置かれた状況を考えれば、選手たちは実によくやったと思う。だからこそ帰国した際には、ファンから温かく出迎えられたんだ」

フィジカル頼みのスタイルに先祖帰り。

 とはいえロシア大会が、オーストラリア代表の前途を明るく照らしたわけではない。むしろ、深刻な問題を改めて浮き彫りにした印象が強い。

 1つ目の問題は、オーストラリアサッカー界がどのようなスタイルを追求していくべきかという議論が、振り出しに戻ってしまった点だ。

 もともとオーストラリア協会は、フィジカルの強さに頼った放り込みサッカーからの脱却を図っていた。

 しかしパスサッカーを追求したポステコグルーの後任に据えたのは、先述の通り、リアリスティックなファンマルバイクである。そしてフィジカルなスタイルの象徴的な存在だったティム・ケーヒルも、結局チームに招集された。

 ファンマルバイクの起用についてポステコグルーは、現実的な選択だったと前置きしつつ、次のようにコメントしている。

「代表チームの根本的なフィロソフィーが変わろうとしているのは明らかだ。彼はしぶとい戦い方をするチームを常に作り上げてきたし、とても実戦的なアプローチを採用してきた。だが私はある意味で、彼とは真逆の位置にいる監督だ」

 ちなみにファンマルバイクの後任には、かつてJリーグなどでも指揮を執ったグラハム・アーノルドが再び就くことが決定している。アーノルドはポステコグルーとも同世代に属するが、サッカーに関しては、オーソドックスなアプローチを好む。

 代表監督の人事と目指すべきビジョンの提示、いずれの面においても協会の迷走を指摘する関係者は少なくない。

【次ページ】 才能発掘のためのトレセンを廃止。

BACK 1 2 3 4 5 NEXT
本田圭佑
メルボルン・ビクトリー

海外サッカーの前後の記事

ページトップ