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史上最強・聖光学院が福島12年連覇。
転機は監督の「負けてみろ!」。 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byGenki Taguchi

posted2018/07/26 10:30

史上最強・聖光学院が福島12年連覇。転機は監督の「負けてみろ!」。<Number Web> photograph by Genki Taguchi

選手たちに22回も胴上げをされた斎藤智也監督。1999年に監督に就任した。

「真面目でお利巧ちゃんが多い」世代。

 斎藤監督やBチームの監督として選手たちを育て上げた横山博英部長は、今年のチームの気質を「真面目でお利巧ちゃんが多い」と評している。

 目標に向かってひたむきに取り組む。新チームが発足して間もない秋は、メンバーが入れ替わったこともありチーム力の基準が明確でない部分が多い。それが「負ける怖さ」となって選手たちを不安にさせたからこそ、1戦必勝で愚直に戦うことができた。

 だが、結果を出してからのチームは、勝利にこだわりすぎるようになった。

 周りが「史上最強」ともてはやす。真面目な気質の選手たちは、「期待に応えなければ」と日本一を声高に叫び、目先の勝利にしか意識が向かなくなっていく。そのせいで、2回戦で東海大相模に3-12と大敗したセンバツでの苦い経験が、思いのほか尾を引いた。

勝つことを意識しすぎた「淀み」。

 センバツに出場した年というのは、一種の「燃え尽き症候群」に陥りやすい。

 シーズンオフも気を休めることなく邁進し、3月の開幕まで状態をマックスに仕上げなければいけない。だから、大会後に一旦チーム力が下がってしまうのは、斎藤監督としても織り込み済みではあった。

 しかし今年のチームは、勝つことを意識しすぎて勝てなかったことから、大敗のショックを過剰に引きずってしまっていたのだ。

 斎藤監督は、それを「淀み」と表現した。

 その淀みが顕在化したのが、春の県大会初戦の白河との一戦だった。

 結果から述べれば6-2。スコアとしては危なげない展開に映るだろうが、5回までフラウアウトを8つ記録するなど終始、淡白な野球が目立った。選手たちの士気も一向に上がらず、淡々と試合をこなしているだけだった。

 勝敗に関わらず、報道陣に対して丁寧に応じる斎藤監督が、珍しく「今日は正直、何も話したくない気分だよ」と顔を歪ませながら、選手たちをこのように評した。

「無様だった」

 斎藤監督が憤っていたのは結果や内容以上に、選手たちの気概だった。

【次ページ】 「うちの『いい野球』っていうのは……」

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