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中田英寿を平塚に連れてきた男。
甲府の名スカウトが語る目利き術。 

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杉園昌之

杉園昌之Masayuki Sugizono

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photograph byMasayuki Sugizono

posted2018/07/24 17:30

中田英寿を平塚に連れてきた男。甲府の名スカウトが語る目利き術。<Number Web> photograph by Masayuki Sugizono

来季加入内定の中山陸(左)に声を掛ける森淳氏。プロビンチアの甲府にとって、敏腕スカウトの存在は何よりも大きい。

地方クラブは交通費も無駄にできない。

 始まりは中田だったが、スカウトの原点は石原だという。30歳で仕事をはじめ、湘南の育成組織で働いた2年間をのぞき、この道ほぼ一筋('01年から'03年は湘南の強化部長としてスカウトに関わる)。石原が湘南で一人前になる姿を見て、確信した。後に広島ではリーグ連覇に貢献し、現在は仙台のエースとして活躍している。

「選手は成長する。“勲章(肩書)”なんてなくても良い選手はいい」

 仙台、甲府と働く場所を変わっても、基本的な考え方は変わっていない。ビッグクラブが超高校級、大学ナンバーワンと騒がれる目玉選手の争奪戦を繰り広げるなかでも、わが道をいく。競合して負けたとき、その選手を追いかけてきた時間はもう戻ってこない。

 地方クラブは予算も限られており、交通費も時間も無駄にはできない。'10年に甲府のスカウトとなってからは、主に大学生の原石たちにいち早く目を付け、追いかけている。競合する前に仕事を終えるのがモットーだ。

「その時点で何か足りないものがあってもいい。たとえ身長が少し低くても、足が少し遅くても、技術が少し足りなくてもね。ここが悪いからダメと思えば、良いところが見えなくなる。弱点を補うものを身に付ければいいし、改善だってできる。これはコーチに対して“しっかり育ててくれよ”というメッセージでもある」

佐々木翔、伊東純也らの才能を見抜く。

 神奈川大から獲得した佐々木翔(現広島)は、一部ではセンターバックとしてサイズ(176cm)が足りないという見方もあったが、気にしなかった。身体能力が高く、ボランチ、サイドバックもこなすユーティリティ性があれば、プロでも通用すると踏んだ。

 同大学の伊東純也(現柏レイソル)もしかり。チームが1部リーグから降格し、他クラブの関係者は2部リーグでの活躍にあまり目を向けなくなっても、最後まで潜在能力を信じた。「カテゴリーは関係ない」と言い切り、ドリブルとスピードは一級品と評価した。

 いずれもプロ入り後に他クラブに引き抜かれたが、違約金を残している。日体大から迎え入れた稲垣祥(現広島)は運動量とボール奪取力を買った。その後、彼も移籍したが、甲府で試合経験を積むことで大化けしたいいモデルケースだろう。

「甲府に残って活躍してくれればうれしいけど、プロの世界だから。高い評価を受けて、大きなクラブでプレーする夢を持ってもいい。純粋にサッカー選手として、成長してほしいと思う」

【次ページ】 「ゲームに出ることが、一番」

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