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貴乃花親方と村田諒太の対談全文。
強さ、身体感覚を極限まで求めて。 

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Number編集部

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2018/07/09 07:00

貴乃花親方と村田諒太の対談全文。強さ、身体感覚を極限まで求めて。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

貴乃花親方と村田諒太。肉体をぶつけ合う競技に挑む2人だからこその身体感覚がある。

32歳という年齢はどういう時期か。

村田 最近は引退の美学もいろいろと違って、長くやられる方もいますけれど、貴乃花さんは身体も心も限界だったんですね。

貴乃花 村田さんの場合、一度引退されたというのは、休養だったんでしょうね。

村田 結果的にそうなった形で。そのときは『引退だ!』と思ったんですけれど。

貴乃花 結局は運命なんでしょう。休養も鍛錬のうち、と言いますが、そこからチャンピオンになる、定められた道だった。選ばれた人しかできないことですよ。限界と思ったのが休養だったというのも、村田さんのバイオリズムなのかもしれませんね。

村田 僕はカミさんによく、パパはヒマじゃない方が輝いているから、忙しい方がいいよ、と言われますが(笑)。自分は今32歳ですが、貴乃花さんは32歳の頃はどういう時期だったんですか。

貴乃花 親方2年生で、部屋を受け継いで、社会に揉まれていました。自分さえ鍛えて土俵に立っていればいい、というのが年々懐かしくなってきて(笑)。

村田 そっちの方が楽だったな、と思うくらいですか(笑)。

貴乃花 本当に。弟子たちに鍛える場所、環境を作って与えるということが大変な作業で。そのためには経営という観点も出てきて、自分の「子どもたち」が活躍できる場を法律的、行政的にも守らないといけない。そういうことを初めて実感して、いまだに勉強中です。それでないと、子どももなかなか育っていきませんから。

何をもって父を超えたと思えるか。

村田 力士さんも、アスリートも、理想的な環境でやれる子はなかなかいませんよね。それをいかにうまく作ってあげるか。

貴乃花 その環境があって初めて、厳正に、厳格に、人格を育てる、厳しく言うということができますから。自分が師匠、実の父親に環境を与えてもらったありがたみがよくわかります。でも、まだまだこれからだな、と。それは一生続くものですね。

村田 なるほど……そこで、お父さまを超えたい、というお気持ちはあるんですか?

貴乃花 それはないんです。大関だった親父の背中を見て、私は潜在的に、父の分身、「分け身」として相撲に入ったところがあるので、親を超えたい気持ちは全くなくて。むしろ親父の弟子として次の代につないでいく、そのためにそれなりの実績を残させないと、というのが今の糧ですかね。

村田 ハンマー投げの室伏広治さんの著書で読んだんですが、室伏さんは常にお父さまと比べられる。そこで何をもって父を超えたと思えるかというと、もう一人の室伏広治を人間的にも作れたとき、初めてお父さんの域に立てると考えているそうです。

貴乃花 そうなんですね。私は、入門してから引退するまで、土俵に上がって親父が心の中にいなかったことがないんです。だから、ある意味で恐れをなくせたのかもしれません。そういう、宗教的ではないですが信仰心のようなものがないと、勝負事って闘えないじゃないですか。その信じる心を教えてくれたのは、心の中にいる親父の存在しかないな、と思うんです。

【次ページ】 努力ほど裏切るものもないじゃないですか。

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