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貴乃花親方と村田諒太の対談全文。
強さ、身体感覚を極限まで求めて。 

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Number編集部

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2018/07/09 07:00

貴乃花親方と村田諒太の対談全文。強さ、身体感覚を極限まで求めて。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

貴乃花親方と村田諒太。肉体をぶつけ合う競技に挑む2人だからこその身体感覚がある。

まわしに指を2本、3本の緻密さで。

村田 あの、貴乃花さん、現役中お酒飲まなかったんですか。

貴乃花 飲みませんでした。

村田 本当ですか!? 僕の大学の相撲部の子たちは、大会があると決起集会だ、とか言って集まってワーッと飲んで翌日出発、なんてやっていたので。その飲まないというのは貴乃花さんだけなんでしょうか?

貴乃花 数少ないと思います。いや、飲めないことはないんですけど、若いとき、お付き合いで飲んだりすると翌日、手先にブレが生じる感じがあって、戻すのに1週間くらいかかっちゃって。私は相撲の取り口として、踏み込んでまわしを取らないといけない、くっついて勝負をしたい方なので。指1本引っかかったときに、それを2本、3本とかけていく。そこにブレが生じるのは、ちょっと怖いな、と思ったんです。

村田 指を2本、3本……ですか?

貴乃花 (実演しながら)こう、まわしをクッと取るんですが、指1本だとすぐに離れてしまう。離れそうになったら、逆の手で行く。すると相手が警戒するじゃないですか。そこで元の側の2本目、3本目の指をかけていく、とかそういうことです。

村田 緻密さで勝負をしていたんですね。

貴乃花 相撲はいかんせん無差別級なので、そうしないととてもじゃないけど上には行けないな、と思って。曙関や武蔵丸関には吹っ飛ばされちゃうので。凄いんですよ、パワーが。お互い横綱でも、攻めどころを間違えると一気に持っていかれちゃいます。

村田 立ち合いの衝撃は物凄いそうですね。

貴乃花 そうです。当たると1トン近い衝撃があって、普通なら脳震盪状態ですが、そこで自然と2歩目が動くよう、鍛錬する。でもあっという間に、あれ、勝ってた、とか、あっ、負けてた、という。そこは精神的な視野の方が大きいかもしれませんね。

試合、取組に臨む際の“本能”。

村田 そうして22回の優勝で、平均すると13勝2敗くらいでしょうか。

貴乃花 だいたいそうですね。横綱の勝ち越しは12勝と言われますから。3敗すると、ほぼ優勝はないですね。

村田 確かに、今もそれくらいですね。

貴乃花 全勝でいければいいんですが、長丁場なので。10日目頃を過ぎると、精神が落ち着いて本能的に取れる状態にならないと、なかなか自分の本領を発揮できません。ボクシングも昔は15ラウンドですよね。

村田 そうです。自分はアマチュアが長かったんですが、世界選手権だと最大7試合戦うことがありました。準優勝した'11年がそうで。67カ国の参加で、4試合勝つとベスト8で、オリンピックの出場権を得られる仕組みだったんです。そうしたらベスト8の次の5試合目は、もうオリンピックも決まっているし、疲れ切っているしで、集中力もクソもない。倒れないよう、ケガさえしなきゃいいやと思っていたら、そんなときに限って良かったりするんです。

【次ページ】 あぁ疲れた、という時に意外と。

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