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相撲界のセカンドキャリア整備を。
学生力士たちが公務員と迷う現状。 

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西尾克洋

西尾克洋Katsuhiro Nishio

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photograph byKyodo News

posted2018/06/04 07:00

相撲界のセカンドキャリア整備を。学生力士たちが公務員と迷う現状。<Number Web> photograph by Kyodo News

栃ノ心の大関昇進はめでたいが、その陰で多くの力士が静かに引退していくことも忘れてはならない。

引退後の職業は飲食、介護、整体が定番。

 彼らは、相撲とは別の世界で生きていくことになる。

 大相撲を引退した力士の大半が、大きく分けて3つの職業に就くと言われている。

 飲食業、介護、そして整体である。

 元力士とはいえ、髷を落とせば30歳前後で相撲以外の職歴の無い1人の労働者だ。労働市場に出れば、同世代で社会人としてキャリアを積むビジネスマンとの比較になる。業界未経験の元力士を取るか、業界経験が十分にある者を取るか。経営者の観点から考えると答えは一目瞭然だ。

 前述の3つの職業は、現在未経験でも比較的採用されやすい業界だ。ただし、経験を重ね、スペシャリストになるまでは収入が別の業界と比べると低いことも事実である。

 アラサーからのスタートで周囲をゴボウ抜きせねばならないのだから、親方として生きていくのとは別の困難が待ち受けているのが、大多数の元力士なのである。

レアメタル回収という職を選んだ力士も。

 最近引退した力士の話をしよう。

 元前頭の大岩戸が5月場所を前に引退したのだが、彼の場合は関取経験が24場所とわずかに年寄名跡の取得には及ばなかった。昭和56年生まれで今年37歳になる世代だ。

 2014年に幕下に落ちてからは、ベテランでありながら十両昇進を目指し続けた。普通は引退を考えてもおかしくない年齢だ。幕下上位からも次第に地位を落とし、中位や下位が定位置だった。だが彼は諦めなかった。幕下34枚目で迎えた2017年夏場所で、史上最高齢の幕下優勝を掴み取ったのである。

 大岩戸はこの1年、十両復帰を目指して最後の闘いに挑んだ。

 幕下3枚目まで番付を上げ、十両昇進と年寄名跡取得が夢ではないところまで近づいたが、そこまでだった。一番一番が勝負で、これを逃せば次は無いという状況と向き合い、闘い続けた大岩戸のこの一年の土俵は心を打つものがあった。だが、力及ばなかった。

 そんな彼が選んだ次の道は、大相撲とは全く関係のない「レアメタル回収業」という耳慣れぬ職業だ。

 学生横綱にまで上り詰め、約4年の関取経験のある技術を継承できないのは相撲界にとっての損失だが、潔い生き方ではあると思う。だが、潔すぎる感も拭えない。

【次ページ】 幕下の年収は100万、十両は1000万。

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