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ジョコビッチと全仏の不思議な関係。
「マシン」ではない人間らしさが。 

text by

山口奈緒美

山口奈緒美Naomi Yamaguchi

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photograph byAFLO

posted2018/05/30 08:00

ジョコビッチと全仏の不思議な関係。「マシン」ではない人間らしさが。<Number Web> photograph by AFLO

負傷からの完全復帰を目指すジョコビッチ。2度目の全仏優勝へ、モチベーションは非常に高い。

「マシン」と恐れられた男の脆さ。

 不屈の精神力と狂いのないプレーで「鉄人」とか「マシン」と呼ばれて恐れられたジョコビッチが、この5カ月の間に見せた“脆さ”に私たちは戸惑ってきた。同時に、12ものグランドスラム・タイトルを積み重ねた強さが、どれほど純粋で妥協のない鍛錬と献身に支えられていたのかを知ったのだ。

 テニスコートに立てない日々は、まだ子供の頃からひたすら世界一を目指して徹してきたルーティンを壊し、自信を奪ってしまった。

 2012年に最愛の祖父を失くしたときも、その翌年に父が重い病に倒れたときも、ジョコビッチは一時的な不調に陥っている。妻エレナとの不仲が報じられたときもそうだった。鉄人でもマシンでもない、むしろそんな人間らしさこそジョコビッチなのかもしれない。

 そして、困難にぶつかったとき、決まって哲学的なことを口にする。 

「人生に起こることにはすべて理由がある。なぜ起こったのかを考え、そこから学ぶのは僕たちの仕事だ」と。テニス人生最悪のこのケガも、プレーヤーとして人としてより強くなるためのものだと自分を鼓舞し続けてきた1年だった。

錦織圭、ナダルとの接戦で射した光。

 暗闇に光が射したのは、先々週のローマ・マスターズ。ランキングで示した今季敗れた相手の中で、最後の『2位』というのはラファエル・ナダルのことだ。準々決勝でやはり今復活に挑む錦織圭を2-6、6-1、6-3の逆転で破ったあと、準決勝でそのナダルと対戦した。6(4)-7、 3-6で敗れたものの、クレーの絶対王者を相手に全盛期のキレとしぶとさを取り戻していく。

 1大会に5試合を戦うのは今年初めてで、休養前の最後の大会、ウィンブルドン以来だった。

「トップの選手と対戦しないと得られない自信というものがある。こういう試合をいくつも重ねていくプロセスが大事なんだ」

 いいタイミングでそのきっかけを手にし、パリに乗り込んできた。ローランギャロスはジョコビッチにとって特別な場所だ。大会とのパートナーシップが46年目となるウェアブランドが、自身のパーソナルスポンサーだという理由だけではない。そのハーモニーは、もっと長い時間、時に静かに時に刺激的に奏でられてきた。

【次ページ】 過酷な赤土が人間らしさを引き出す。

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