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全日本柔道で執念の復活優勝。
最重量級・原沢久喜が流した涙。 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2018/05/05 08:00

全日本柔道で執念の復活優勝。最重量級・原沢久喜が流した涙。<Number Web> photograph by AFLO

勝利の瞬間、目に熱いものがこみあげた原沢。

3回戦以降すべて延長にもつれ込んだが。

 迎えた今回の全日本選手権でも決して好調とは言えなかった。初戦こそ本戦の4分内に勝利したが、3回戦以降はすべて延長にもつれこんでの勝利。準決勝は7分35秒もかかり、決勝開始までの間隔は10分ほどしかなかった。

 決勝の相手は王子谷剛志。原沢とは同学年で、長年しのぎを削ってきた相手であり、全日本選手権を一昨年、昨年と連覇している強豪である。しかも今大会はすべての試合を4分以内で勝ち上がっていた。

 体力面での劣勢も予想された試合は、立ち上がりから王子谷が圧力をかけるように前へ出て、技をかけにいく。この日、最も積極的に攻める姿勢を見せる。

 原沢も内股を仕掛けるなど応戦するが、王子谷の気迫は変わらない。残り25秒で両者とも指導を受ける。

 試合はそのまま延長に突入。互いに何度も対戦し、手の内を知莉尽くしているだけに、容易に技はかからない。その中でも原沢、王子谷ともに退くことはない。互いに少しでも隙があればかかりそうな大外刈の応酬を見せるなど、緩みない時間が過ぎていく。

 それぞれに指導が与えられ、互いに「2」。次に指導を受けた方が敗れる。

 いつ終わるともつかない試合に決着がついたのは、試合時間が9分16秒を数えたとき。

 9分に近づいた頃から疲労の色が明らかになった王子谷が、畳の上に潰れること3回。指導が与えられ、その瞬間、原沢の3年ぶりの優勝が決まった。

「今日、自分自身すごく調子悪くて、苦しんで苦しんで戦った中で、最後、疲労困憊だったんですけど、ここまで戦えたことにちょっと涙がこぼれてしまいました」

東京五輪に出たいという一心で。

 最後まで途切れなかった執念の奥底には、「2年後」への思いがあった。

「東京オリンピックに出たいという一心で戦いました。今年の世界選手権は2年後につながってくるので」

 柔道は、一度だけの大会を対象に代表選考が行なわれるわけではない。逆算していけば、五輪中間年の今シーズンから、代表争いは本格化していくと言っていい。

 ましてや原沢は、リオ五輪後、成績を残せずにきた。オリンピックに出るためには後がない。何が何でも優勝して世界選手権代表に選ばれたい。そんな思いがこの日の原沢にはあった。

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原沢久喜

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