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力士と怪我の切っても切れない関係。
慢性化する前に完治させる制度を! 

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西尾克洋

西尾克洋Katsuhiro Nishio

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photograph byKyodo News

posted2018/05/08 07:00

力士と怪我の切っても切れない関係。慢性化する前に完治させる制度を!<Number Web> photograph by Kyodo News

150kg以上の体を支える膝の故障は、まさに力士の職業病。それだけにリハビリには十分な時間をかけてほしい。

力士の職業病とも言える、膝の故障。

 そして怪我が完治せぬまま出場を続け、当初の期待から程遠い結果しか出せぬまま力士としての全盛期を消費する。

 では、有望力士たちは何故このようなサイクルに入ってしまうのだろうか。

 理由の1つは、怪我をする箇所の大半が膝だということだ。

 実は膝の怪我というのは、力士生命を完全に絶つものではない。というのも、完治していない状態でも「攻め」は可能だからである。

 なので、自分の相撲が取れる時は良い。前に出る相撲は取ることができるからだ。怪我をした力士が、強い時は怪我の影響を全く感じさせないのは、つまりそういうことだ。

 問題は、受けられないことだ。

 膝を怪我し、完治させていない力士の中で、全盛期と同じように相手の攻めを凌げる者はいるだろうか。断言して良いが、そんな力士は何処にもいない。

 たまにコンディションが良い日だけは凌げても、その状態を保つことは出来ない。

 大相撲は15日トータルの成績を争う競技である。短期間のトーナメントでもなければ、一発勝負という訳でもない。

 15日の中で自分の相撲が取れる時もあるが、どこかで必ず相手が自分を上回ることもある。そして、自分の力を出し切れない時もある。

 そういう時は相手の攻めを凌がなければならないが、怪我を抱えていると、ここで勝ちを拾うことが出来ない。

リハビリに長い時間はかけられない。

 だからこそ、大きく成長するには怪我を完治させる必要があるのだが、力士にとってその決断は難しい。

 休場すると、番付を大きく落としてしまうからだ。

 例えばアクロバット力士として話題になった宇良は、前頭4枚目で9月場所を迎えたが、怪我の影響で1勝2敗12休という成績だった後に3場所連続で休場した結果、幕下50枚目まで番付を落とすことになった。

 野球選手であれば肘の手術を受ければ1年はリハビリに時間をかけるが、力士だとそのような猶予は与えられない。

 数年前に栃ノ心が幕下55枚目まで番付を落とした時は、幕下で2場所連続優勝、十両で13勝2敗、15戦全勝というほぼ全勝に近い状態で幕内に復帰したことがあった。それでも復帰から4場所を要しているのである。

【次ページ】 2003年に廃止された公傷制度。

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遠藤

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