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「甲子園ストライク」対策が裏目に。
富島のリズムを崩した、ある違和感。

posted2018/03/29 14:00

 
「甲子園ストライク」対策が裏目に。富島のリズムを崩した、ある違和感。<Number Web> photograph by Kyodo News

安打数は星稜の11本に対して富島は8本。11-2というスコアほどに、両者の力は離れていなかった。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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 用意周到さが裏目に出た。

 星稜(石川)に2-11と完敗した富島(宮崎)の捕手、黒田直人が振り返る。

「いろんな人に甲子園のストライクゾーンは広いぞって言われていて、昨日から、こうやって攻めようとシミュレーションしていたんですけど、普通より、縦横も、低めも、狭く感じました。ぎりぎりのコースで攻めたかったんですけど……」

 今や、高校野球界では、常識となりつつある「甲子園ストライク」。

 もちろん個人差はあるだろうが、甲子園では過密日程のため、少しでも試合時間を短縮しようとストライクゾーンが広くなる傾向がある……と言われている。

 駒大苫小牧時代、田中将大も「ボールからボールになるスライダー」を武器にしていた。ただでさえ「消える」と言われるほどキレがあるのに、それを外のボールコースから曲げられたら当たるはずもない。

 富島の先発、黒木将胤(くろぎ しょういん)の生命線は、ストライク先行で、打たせて取るピッチング。ところが、初回に2四球を与えるなど、立ち上がりから制球が安定しないように見受けられた。

 その裏には、そういう事情もあったのだ。

四球が試合の流れを大きく変えた。

 記者に「この試合のターニングポイントとなった場面は?」と聞かれると、黒木は3回裏、先頭打者に与えた四球を挙げた。「細かな制球力がなかった……」と自分を責めたが、ボールを受ける黒田はこう擁護した。

「2ボール2ストライクから、外のスライダーで決めにいったんですけど、僕のミットが横に流れ、ボールになってしまった。僕のミスです……」

 1回裏に1点を先制された富島だったが、3回表に連打で2-1と逆転。ノーアウト一塁から強攻し得点するなど持ち味を発揮し、いい流れになったところでいきなりの四球だっただけに、チーム内に小さなショックが波紋のように広がった。

 黒木はその後、連続四球を与え、一、二塁からライト前ヒットを打たれ、瞬く間に2-2の同点に追いつかれる。

 この時点では、まだ「余裕があった」と語る黒木だが、この後のプレーが追い討ちをかけた。

【次ページ】 ミスの背景には、予期せぬ反転が。

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