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同性愛を公表し、副大統領を挑発。
アメリカ選手が政治発言をする理由。 

text by

及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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photograph byTsutomu Kishimoto/JMPA

posted2018/02/25 09:00

同性愛を公表し、副大統領を挑発。アメリカ選手が政治発言をする理由。<Number Web> photograph by Tsutomu Kishimoto/JMPA

アダム・リッポンの演技は会場を大きく沸かせた。そこには、メダル争いとは異なる価値基準もまた確かにあった。

美女スキーヤーにも「ざまみろ」と中傷が。

 美女スキーヤーとして知られるリンジー・ボンはバンクーバー五輪で金、銅メダルをとり、一躍アメリカで人気の冬季五輪選手になりました。

 しかし昨冬のテレビインタビューで「アメリカの国、そして人々のために戦うけれど、現政権と今の大統領のために戦うつもりはない。五輪後にホワイトハウスに招待されてもいくつもりはない」と発言すると、トランプ氏の支援者から集中砲火を受けました。

 今大会では、17日のスーパー大回転で転倒。「メダルまで手が届いていたのに、大きなミスをしてしまって悔しい。でも自分の滑りには後悔はないし、全てを出し切る努力をした」とツイートすると、待っていましたとばかりにアンチは「ざまみろ、カルマ(宿命)だ」、「転倒した選手なんかホワイトハウスに招待されない」などの誹謗中傷を送りつけました。

 アンチの心無い言葉にも負けず、21日の滑降でボンは銅メダルを獲得。メダルが決まると涙ながらに「とても意味のあるメダル」と話しました。

五輪という最大の注目を集める場所で。

 スポーツ選手は競技だけに集中すればいいのに、そう考える人もいるはずです。しかし彼らは五輪という注目を集める最高のプラットフォームを利用して、自分と同じ悩みや苦しみを抱える人たちの支えになったり、自分の信念を主張したいと考えます。

 リッポンは「競技よりも、自分が同性愛者と公表してオリンピアンになったことが最も重要なことだ」と発言。

 一方、ボンは大会前にSNSで、アメリカを憂う気持ちを綴っています。

「五輪は政治的なイベントではない。特定の党や政府のために戦う場所ではなく、チーム一丸となって国のために戦うイベント。私はアメリカ人であることも国のために戦うことも誇りに思っている。アメリカは希望と思いやりに溢れ、世界を融合する国であってほしいのに、世界の人々はアメリカをそうは思っていない。むしろ、まちがった方向に進んでいるように感じる。

 私がアンチ・トランプだからといって『首の骨を折ればいいのに』『いつか天罰が下る』というコメントを見るのはとてもつらい。私たちはコミュニケーションをとりながら違いを受け入れ、共通点を見つける必要があると思う。心地いい世界を作ることは自分にとって五輪やスキーよりも大事なこと。アメリカが『理想社会』になることを願っている」

 4年に一度の戦いに挑む選手が神経をすり減らしてまで声を上げなければならないほど、アメリカは病んでいる状況です。国内の対立と分裂を煽る人々がボンの言葉に耳を傾け、少しでも理解をしてくれることを願ってやみません。

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