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カズに憧れたヤンチャ小僧の28年間。
平本一樹、引退後は町田で次の夢へ。 

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海江田哲朗

海江田哲朗Tetsuro Kaieda

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photograph byGetty Images

posted2018/02/01 08:00

カズに憧れたヤンチャ小僧の28年間。平本一樹、引退後は町田で次の夢へ。<Number Web> photograph by Getty Images

2005年元日、天皇杯決勝でヴェルディを栄冠に導いた平本。黎明期のJリーガーのようなたたずまいを感じさせた選手だ。

「よくぞ放り出されなかったものだと自分でも思う」

 '99年8月18日、ヴィッセル神戸戦でプロ初得点。18歳の誕生日にゴールを決めた。

「一番憶えているゲームです。2-3で負けちゃったんですが、僕自身は初ゴールがうれしくて仕方がない。試合後、監督からは『おまえだけ笑ってんじゃねえ』と叱られました」

 ストレートな気質の持ち主で、若い頃の素行は褒められたものではなかった。問題行動が度々発覚し、「よくぞ放り出されなかったものだと自分でも思いますよ」と平本は笑う。

 味の素スタジアムのウォームアップルームでひざを抱え、星の見えない夜空をいつまでも見上げていた秋の日があった。

「あの負けは悔しかったですね。最後のシュートは、やり直せるものならやり直したい」

 2004年10月13日、ナビスコカップ準決勝の東京ダービー。東京Vは前半で3失点を喫し、しかも退場者を出しており敗色濃厚となっていた。後半、平本は1得点2アシストと獅子奮迅の活躍を見せ、3‐3の同点に追いつく。そして、アディショナルタイム。前線の平本を目がけ、小林大悟の右足からロングパスが放たれた。

「ボールが照明にかぶって、しばらく見えなかったんです。やっと見えて、ひゅっと足を出したら絶妙のトラップに。もし最初から見えていれば、あんなにうまくは止められなかったでしょう」

 左足を振り抜いたシュートは、ポストを直撃。Vゴール方式の延長戦、始まって1分も経たないうちにFC東京がセットプレーから得点し、東京Vは敗れている。

4人抜きシュートでクラブに8年ぶりのタイトル。

 同年の天皇杯、ここでの無念を晴らすかのように東京Vは勝ち進んだ。'05年元日、ジュビロ磐田との決勝戦、平本は4人抜きのドリブルシュートを決め、チームを勝利に導く。東京Vにとって、8年ぶりのタイトルという快事だった。

 ハマったときのパフォーマンスは抜群。一方、ハマらなかったときの反動もまた大きかった。トリックスターと言えば聞こえはいいが、ムラっけに振り回される側はたまったものではない。おとなしくしていて目立たないだけならまだしも、空回りの挙句にうっかり退場をしでかす。この、ままならなさが平本という選手の本質である。

 潜在能力の高さからブレイク寸前と言われ続けるうち、いつしかベテランの域に達していた。そのキャリアを通じ、際立った数字を残したわけではない。日本代表にも縁がなかった。だが、観る者に自らの像を刻むことにおいて、平本は間違いなく一流だった。

【次ページ】 「縦にいけなくなったら引退しよう、ところが……」

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