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イチローも打席で意識する“利き目”。
オリ伊藤光の目に起こった変化とは。 

text by

米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byKyodo News

posted2018/01/27 11:30

イチローも打席で意識する“利き目”。オリ伊藤光の目に起こった変化とは。<Number Web> photograph by Kyodo News

普段の生活では意識しない「利き目」だが、実は多くの場面で人の動きに影響を与えている。アスリートならばなおさらだ。

契約交渉で初めての保留。理由は年俸ではなく……。

 伊藤は、昨年12月7日に行われた1回目の契約交渉で、初めて保留した。年俸が問題ではなく、どうしてもスッキリさせておきたいことがあったからだ。

「捕手一本でやりたい」

 その思いだけだった。

 伊藤は2013、'14年に137試合に出場し、正捕手の座をつかみかけていた。しかし'16年に若手捕手の若月健矢が台頭し、昨年も若月が正捕手候補と期待されていた。一方で、伊藤の打撃力も活かしたいと、サードやファーストで起用する構想が浮上し、器用な伊藤はそれを難なくこなした。しかしシーズン終了後に振り返った時、伊藤にはもやもやしたものが残った。

「両方できたらいいじゃないかと言ってもらえるのはありがたいですし、自分もできると思っているのでやりはしますけど、1年が終わった時に、『終わった気がしないな』と思ったんです。

 チャンスを与えてもらったという気持ちもありましたが、サードで試合に出られなくなっても別に何も悔しくなかった。そこにこだわりを持ってやっているわけじゃないから。出るからにはどこであれ勝つためにやりますし、ピッチャーが頑張って投げているのに、不慣れだからってミスをするのはありえないので、しっかりこなそうと思っていました。でもやっぱりベンチにいる時に考えるのは、キャッチャーのこと。キャッチャーにしかこだわりがないですから。

 今日はサードかな、キャッチャーかな、というよくわからない気持ちで毎日過ごして、どちらの準備をすればいいかわからない状態よりは、捕手に集中したかった。夏以降、捕手でスタメンが増えていった時に、もっともっと春先からピッチャーと話したり考える時間があったら、違ったかなという気がしたんです。自分はキャッチャーが本職なので、そこに時間を費やしたい。それが自分がチームに一番貢献できるベストな形だと思いました。

 出れるか出れないかは自分の結果次第なので、結果を出せなくて出られないのはしょうがないんですけど、常にキャッチャーとしていたいと思ったので、それを伝えさせてもらいました。自分を使ってくれと言ったわけではなく、ただキャッチャーをやりたいと言っただけです。キャッチャーとしてずっと過ごせる状態で、契約していただきたかったんです」

 交渉の場でその思いを訴え、森川秀樹球団本部長補佐が福良淳一監督に伝えた。2回目の交渉では、「キャッチャーとして攻守にわたって貢献してほしい。中心でいてほしい」という球団からの言葉を聞き、伊藤は判を押した。その直後の記者会見ではスッキリとした表情だった。

 今シーズンの目標は、打てる捕手として「2013年を超えるキャリアハイの成績を残すこと」。伊藤にとって覚悟の11年目がスタートする。

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