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アラフォーの星野仙一は強烈だった。
「巨人軍と面白く戦う」という奔放。 

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中溝康隆

中溝康隆Yasutaka Nakamizo

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photograph byKyodo News

posted2018/01/17 11:00

アラフォーの星野仙一は強烈だった。「巨人軍と面白く戦う」という奔放。<Number Web> photograph by Kyodo News

大型トレードでの落合獲得。選手としても監督としても、星野仙一は巨人を倒すために万事を尽くした人物だった。

銀座の女を口説けるくらいの強心臓になれ!

 もちろん夜の遊びも巨人ナインには負けていられない。中日を全国区にしようと思って、先頭に立って銀座の一流クラブに出掛けていく。

 ここで星野仙一は下戸だったはずじゃ……なんて突っ込みは野暮だろう。

 名古屋のカラオケバーでは騒ぐのに、銀座へ行くと借りてきた猫のように大人しい若手選手に向かって、「物怖じするな。ここの女の一人や二人、口説けるくらいの強心臓にならんとあかんぞ!」となんだかよく分からない叱咤激励をするわけだ。

 その根本にあるのは「バカにするな、野球選手は巨人だけじゃないわい」的な反骨精神。なにせオールスター戦に選出された時も、夢の球宴なんてハシャグ気持ちではなく、宿敵に負けまいと、セ・リーグベンチの中で巨人選手たちと戦っていたのが実状だと言う。

 凄い……。ここまで来ると読者も尊敬の念を抱きつつ、思わずクロマティばりに「星野仙一は狂ってる」と圧倒されてしまう。

落合との不仲説も「監督の方が偉いんだ」。

【『星野仙一 魅力ある男だけが生き残る 新しい時代の管理学』(星野番記者グループ著/学習研究社/1988年10月2日発行)】

 その星野が39歳で中日監督に就任後、2年目の'88年シーズンで見事優勝を飾った直後に出版された本書は“理想の上司”としての星野監督が語られている。当時、度々報じられていた主砲・落合博満との不仲説については「監督と選手では監督の方が偉いんだ。不仲? それは同じ土俵に立つ人間同士の関係のことだ。俺と落合では土俵が違うじゃないか」と笑い飛ばす。

 元三冠王のオレ流打者もイチ平社員扱いした選手操作術だが、監督就任時の'86年オフに巨人へのトレードが有力視されていた落合を逆転で獲得したのも星野の執念だった。この大打者をライバルに獲られたらしばらく優勝するのは難しくなる。そこで現役時代から企業の社長と食事をともにし、政財界とも大きな繋がりを持ち“オヤジ殺し”的な側面も持っていた星野は動く。

 渋る加藤巳一郎オーナーや中山了球団社長に直談判で獲得GOサインを貰うと、スパイ大作戦のごとく系列グループの新聞各社の記者たちに巨人や落合の動きを徹底的に調査させる。まだ球団関係者ではなく巨人のOB関係者が動いている段階と知り、正式に交渉を開始。最終的に12月23日夜10時過ぎの1対4の大型トレード成立までこぎ着けるわけだ。

【次ページ】 トレード要員の牛島に「背広にネクタイしておけ」。

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