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前橋育英サッカー部監督にして校長。
山田耕介の真っ直ぐな人生を考える。 

text by

安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

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photograph byTakahito Ando

posted2018/01/16 11:00

前橋育英サッカー部監督にして校長。山田耕介の真っ直ぐな人生を考える。<Number Web> photograph by Takahito Ando

前橋育英高校の校長室で撮った、山田校長の貴重なワンショット。背後には沢山の表彰状・トロフィーが並ぶ。

「毎年コツコツと目の前の選手に向き合うだけ」

 その姿に筆者は感動してしまった。

 初めての決勝戦で負けたのだから、想像するだに……相当悔しかったはずなのだ。にもかかわらず、友のためということで嫌な顔ひとつせず、素直に真っ直ぐな気持ちを大勢の前で伝えられる――そんな山田監督を招待した河崎監督も凄いし、それをしっかり受けとめた山田監督の度量にも驚かされた次第である。

 そんな山田監督が一度だけ、弱音をこぼしたときがあった。

 それは2013年に、前橋育英の野球部が夏の甲子園で初出場初優勝を果たしたときだった。優勝の後、山田監督と食事を共にしていると「安藤、やっぱり世間は野球なのかな……。サッカーは(全国高校サッカー)選手権で優勝しないと、周りから評価されないのかなぁ」と呟いたのだ。その数年前に、インターハイという全国大会でサッカー部は優勝していたにもかかわらず、野球部の優勝に対して、ついそんな悔しさが滲んでしまったのだ。

 今でもその言葉は心に焼き付いている。

「でも、俺は結果に左右されないでいたいなぁ。毎年コツコツと目の前の選手に向き合うだけだから」と続けて口にしたように、この後も山田監督の信念は一切ぶれなかった。

 あの時、もし結果を残すことだけに躍起になるような指導者になっていたら――今回の優勝も無かったのではないか、と筆者は思う。

「もうね、僕の監督人生は失敗だらけだよ。今でももっとこうしておけば良かったとか、後悔することはある。でも、大事なのは失敗を『ただの失敗』にしないことだ。

 失敗することを恐れて、失敗を避けようとするのではなく、するのは当たり前で、大事なのは失敗した次。失敗をより『賢く』解決することなんだ。失敗を糧にして、どんどんパワーアップしていく。

 あとは……学校の仕事を理由にサッカー部に対して力を出し切れなかったということにならないようにしないといけないな。どっちも一生懸命やる。これだよ、大事なのは」

 選手権優勝監督の栄誉を掴んでも、山田耕介の信念と生き方は変わらない。常に「本気」で向き合うという、この情熱がある限り――。

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