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柏U-18から青森山田転入の1年間。
中村駿太、涙のラストプレーと感謝。 

text by

安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

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photograph byGetty Images

posted2018/01/14 11:30

柏U-18から青森山田転入の1年間。中村駿太、涙のラストプレーと感謝。<Number Web> photograph by Getty Images

前年度王者で得点源の役割。その重責を1年間でも経験した中村は、プロの世界でもタフさを見せるだろう。

C大阪内定の安藤がゴールを決めた一方で……。

 3回戦の長崎総科大附戦、青森山田は攻勢をかけながらもセレッソ大阪入団内定の相手エース安藤瑞季に先制ゴールを浴びる。その後もチームは何度も訪れる決定機をモノにできないまま時間だけが経過した。

 そして後半アディショナルタイム、冒頭で記したシーンだ。

 右サイドでCB小山内慎一郎からパスを受けた中村は、カットインから相手を振り切って、ついにフリーになる。そこまでは完璧だった。

「理想通りの形で抜け出せたので、あとはラストタッチで自分のシュートポイントに置いて、GKの脇の下に速いボールを蹴るイメージまであった。でも、かなり体力的に来ていたし、ラストタッチが短くて窮屈な状況になって、飛び出したGKもニアにズレてくれなかった。体幹を利かせられない状態でシュートを打たざるを得なくなってしまった。打った瞬間に“外れる”と思った」

 フクダ電子アリーナはため息に包まれた。そして、その直後にタイムアップのホイッスルが鳴り響いた。

 0-1の敗戦。最後の最後でストライカーとしての責務を果たせぬまま、彼の短い冬と、青森山田での日々が幕を閉じた。

泣くべきじゃない、でも応援スタンドの前では。

「ああ、終わったんだ……」

 中村は天を仰いだ。しかし、涙は出なかった。それは「僕は青森山田に来て1年弱。3年間頑張った人が泣くべきで、自分は泣くべきじゃないと思った」と、彼なりの強い思いがあった。

 しかし青森山田の応援スタンドの前に立った時、自然と涙が溢れて来た。

「クラスで仲の良い奴や、サッカー部のみんなが泣いている姿を見たら……。やっぱり涙が出て来ましたし、“それだけ自分は本気でここに来たんだな”とも思いました。今まで正直、自分のことで精一杯なところもありましたが、みんなに少しでも良い思いをしてもらいたいと強く思って臨んだ大会でした。だからこそみんなの思いに応えられなかった自分に腹が立つほど悔しくなったんです」

 この涙こそ、彼が青森山田で得た大きな財産の1つだ。

「これまでで一番気持ちを高めてサッカーができた。負けて言うのもなんですが、凄く楽しかった。これだけの観客の中で、注目されている中で試合ができて、心強い仲間がピッチにもスタンドにもいて、その空間を凄く楽しめた。だからこそ、ここで終わらせたくなかった。もっとみんなと一緒に喜びたかった」

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