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年俸大幅増も上林誠知は笑わない。
イチローと内川聖一から学ぶこと。 

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田尻耕太郎

田尻耕太郎Kotaro Tajiri

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photograph byKyodo News

posted2017/12/06 11:00

年俸大幅増も上林誠知は笑わない。イチローと内川聖一から学ぶこと。<Number Web> photograph by Kyodo News

仙台育英高からプロ入りして4年目の上林は22歳。大谷翔平の1歳下で、松井裕樹、田口麗斗、森友哉らと同い歳。

1年前、憧れの人と練習した時のことを聞くと……。

 じつは1年前の12月、イチローと神戸で初めて会った。知人を介して練習を一緒にする機会を得たのだった。

「イチローさんの姿を見た瞬間に『うわっ!』ってなりました。独特の雰囲気が出てて、とにかく圧倒されました。自己紹介をさせてもらいましたが、自分のことを知ってくれていそうな雰囲気だったので、めちゃめちゃ嬉しかったです」

 普段のクールな表情と違って、イチローの話となると少し熱が入る。

「緊張? 当然ですよ。野球の時も緊張はしているけど、全然質が違いました。人生一でしたね。甲子園? いや、全然比べものにならないです(笑)。その後にベンチ裏に行ったら、道具がぴっちり並んでいました。バッティング手袋やバット。それが最初の印象です。そしてふくらはぎが凄かった。ほんとカッコよかったです」

“凡退して淡々とするな”との注文、日本一後の涙。

 そんな貴重な経験も糧に、一軍で活躍を続けた日々。しかし、終盤に失速すると、上林の所作にチームの首脳陣から注文がつくようになった。藤本博史打撃コーチは報道陣に囲まれるたびに「凡退して淡々としている姿はいいとは思わない。物に当たるとかはダメだけど、悔しさを表現してくれないと」と困った顔を浮かべた。もちろん期待の裏返しではあるのだが、その言葉はシーズンの最後まで繰り返された。

 それでも、上林は考えを曲げなかった。頑固な男だ。それくらいの気概がなければ、プロの世界で活躍を続けるのは難しいのかもしれない。プロ向きの性格とも言える。

 クライマックスシリーズ・ファイナルは2試合に出場しただけで5打数0安打。日本シリーズ進出を決めた第5戦はついに、出場選手登録を抹消された。

 その試合後。工藤公康監督がお立ち台で笑顔を浮かべて話している最中に、仲間と一緒にベンチ前に座っていた上林が大粒の涙を流している姿が、テレビ中継で映し出された。

「悔しいという感情ではなくて、自分に対する苛立ちというか……。気づいたら涙が溢れていた。今まで人前で泣いた事なんてなかった。甲子園で負けた時だって。だから、自分でもビックリしたというのが正直なところです」

【次ページ】 「僕の中では4:6で反省が多かったですけどね」

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