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ハリルが中盤で進めるMF観の革命。
組み立て役と守備役、分業の終わり。 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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photograph byAsami Enomoto

posted2017/11/09 11:50

ハリルが中盤で進めるMF観の革命。組み立て役と守備役、分業の終わり。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

長谷部誠という選手を一言で表現するのは難しい。しかし、彼が日本代表に欠かせない存在なことは紛れもない事実である。

ハリルが危機感を持っているのも、実は中盤?

 他方、長谷部には、年齢的な負担ものしかかってきている。欧州の第一線で活躍してきたミッドフィルダーも、今年で33歳。フランクフルトのニコ・コバチ監督が「1年でも長く現役を続けてほしい」とコメントしたことは、日本でも報道されたとおりだ。

 このことは、ひとつの事実を意味している。

 簡単に言うならば、日本代表は「ポスト遠藤時代のチームづくり」どころか、「ポスト長谷部時代のチームづくり」を、真剣に考えなければならない局面に差し掛かりつつある。しかも長谷部の存在感が大きくなればなるほど、この問題は喫緊の課題として浮上してきているのである。

 ハリルホジッチ監督が同じ危機感を抱いていることは、幾多の試行錯誤からも窺える。

 セレッソ大阪の山口蛍を守備的MFとして抜擢し、長谷部と組ませるパターンをテストしているのは周知の通り。さらには親善試合やワールドカップ予選では、中盤のフォーメーションや選手の組み合わせを変えつつ、遠藤航、永木亮太、大島僚太、柏木陽介、小林祐希、倉田秋、井手口陽介などを起用してきた。

 ロシア大会に向けては柴崎岳や谷口彰悟、高萩洋次郎をはじめ、他のMFにももちろん再び目が向けられるだろうし、今回の欧州遠征では森岡亮太、長澤和輝も新たに招集された。

 このようなハリルホジッチ監督の動向を見ていると、中盤にこそテコ入れの必要性を最も感じているフシさえある。10月のハイチ戦ではFW、MF、DFのすべてで選手を大幅に入れ替えたが、実は中盤の実験が最もラディカルなものだったからだ。

長谷部の役割を若い遠藤航に期待するのは無理。

 攻撃陣には乾、守備陣には長友と酒井高徳というベテランを残したのに対し、中盤は倉田、小林、遠藤を先発に起用。代表経験の浅いメンバーだけで布陣を組むというギャンブルに出た。

 残念ながら、この試みは成功したとは言いがたかった。倉田はニュージーランド戦に続いてゴールを決めるなどアピールしたものの、中盤全体としてみるならば、やはり攻守に精彩を欠いたのは否めない。特にアンカーで起用された遠藤などは、様々な識者によって厳しい評価を受けている。

 だが個人的には、この試合だけで遠藤を評価するのはフェアではないと思う。

 急造に近いメンバー構成で連係を取れというのは無理があるし、4-3-3のアンカーは、インサイドハーフ以上に重要な役割を担う。相手の攻撃の芽を摘むだけでなく、攻撃を組み立てる起点、さらには中盤全体をオーガナイズしていくまとめ役もこなさなければならない。豊富なゲーム経験と強いリーダーシップも不可欠だ。

 長谷部が不動の存在と称される所以だが、同じ役割を24歳の遠藤に期待する、しかも急造チームで全うしろというのは明らかに無理がある。

 しかも遠藤は、湘南時代は中盤でプレーしていたが、浦和レッズに移籍してからは3バックの一員としてプレーしたり、4バックの右サイドなどもこなすようになった。ACL上海戦の第2戦ではサイドバックとしてMVP級の活躍を見せたものの、だからこそ代表で中盤に戻ったときには、ミッドフィルダーとしてのゲーム勘を取り戻す必要が出てくる。

 クラブチームにおけるレギュラーポジションと、代表で与えられる起用法をいかにすり合わせていくか。この問題は万国共通だが、日本代表においても大問題となっている。

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