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カープの教え子は「日本一で恩返し」。
去りゆく石井琢朗コーチの思い出。 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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photograph byKyodo News

posted2017/10/17 10:45

カープの教え子は「日本一で恩返し」。去りゆく石井琢朗コーチの思い出。<Number Web> photograph by Kyodo News

現役時代の石井も練習の鬼だったが、広島に来てからも、その自他に対する厳しい姿勢に変わりはなかったという。

「ヒットにできなかった7535打席」が石井の財産。

 歴代11位の安打数だけでなく、歴代16位の盗塁数やゴールデングラブ4度やベストナイン4度など輝かしい実績をもつが、理論を選手に押しつけるような指導は一切しなかった。

「俺が選手に対して威張れることなんて何もない。あるとすれば、失敗の数くらい。失敗しているから伝えられることはあると思う」

 遊撃手で1765試合出場は日本プロ野球史上最多。現役24年で積み重ねた2432安打よりも、930回選んだ四球などを含め、「ヒットにできなかった7535打席」が指導者・石井の基盤となっている。

 器用な選手もいれば、不器用な選手もいる。強気な選手もいれば、感情表現が得意でない選手もいる。体の強さも違えば、吸収の速度も違う。

 有望株を1人スーパースターに育てるでもなく、才能ある選手ばかりを指導するわけでもない。守備走塁コーチとして球界を代表するセンターライン構築の礎を築き、打撃コーチとしてリーグトップの得点力を誇る打線をつくり上げた。十人十色の選手たちに、石井は柔軟に言葉や方法論を使い分けながら、正しい方向へ導いていった。

「やっぱり12球団で一番魅力あるのはカープだよ」

 今年の夏ごろ、うれしそうな表情でこう言っていた。

「やっぱり12球団で一番魅力あるのはカープだよ」

 現役時代に投手から猛練習で打者として成功を収めた石井にとって、豊富な逸材や猛練習をする伝統のある広島は、指導するには最適の環境だったのかもしれない。

 キャンプでは誰よりも早くグラウンドに姿を見せ、現役時代から日課となっているランニングをしながらその日の練習メニューを考える。打撃投手負担軽減のために、自ら投手を務めることも多々あった。本拠地試合の早出練習では毎日のように投げた。

「僕は一緒に寄り添って練習してきただけ。頑張ったのは選手」と言うが、選手に寄り添い、「型にはめない」指導があったからこそ花開いた選手もいる。

【次ページ】 今季最終戦、庄司の初ヒットで思わず涙が……。

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