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「JK感」の無邪気さの裏側で……。
池江璃花子、弱さと向き合える強さ。 

text by

松本宣昭

松本宣昭Yoshiaki Matsumoto

PROFILE

photograph byTakao Fujita

posted2017/10/16 08:00

「JK感」の無邪気さの裏側で……。池江璃花子、弱さと向き合える強さ。<Number Web> photograph by Takao Fujita

周囲にはハードに見えるレースが連続しても、充実感溢れる表情の池江。ひと泳ぎごとに成長を実感しているのだ。

目標達成してつける花丸が、刻まれなかったレース。

 一方で、声援が耳に入らなかったレースもある。今年4月の日本選手権、史上初の女子5冠を達成したものの、自己ベストは更新できず。水中の彼女に余裕はなかった。

「もちろん声援が聞こえるほうが、調子は良いんです。でも、あのときは周りの声が耳に入らないくらい焦りがあったのかな。必死すぎて、聞こえなかったのかもしれません。大会前に長い距離の練習ができていなかったので、練習量が足りず、体力が落ちてしまったことが原因かなと思ってます」

 毎年1月、池江は自分の手帳に、1年間の出場予定レースと目標タイムを書き込む。目標が達成されれば、タイムの欄に花丸をつける。例えば自己ベストと日本記録を更新したリオ五輪の100mバタフライの欄には、花丸。しかし、今年の日本選手権のページに花丸はなく、代わりに反省の言葉が書き加えられた。

「制服でディズニーランドに行きたい」17歳だけど。

 リオ五輪では日本人選手として初めて7種目に出場し、7月23日からの世界水泳では最大8種目にエントリー予定。東京五輪では金メダル候補として期待がかかる。とはいえ、彼女はまだ17歳。「制服でディズニーランドに行ってみたい」し「髪を巻いて、スカートを短くして、“JK感”を出してみたい(笑)」、普通の高校2年生である。常にメディアからの注目を集める環境で、プレッシャーを感じないはずがない。

 '16年の日本選手権、100mバタフライで初めてリオ五輪への出場権を獲得した直後、池江はテレビカメラの前で言葉を詰まらせ、大粒の涙を流した。

「よく記者のみなさんからも『プレッシャーのある中で』と訊かれるんですけど、自分ではよくわからないんです。私は基本的に、どんな小さな大会でも、すごく緊張します。でも、スタート台の前に立ったら、もう緊張はなくなっている。去年の日本選手権でも、招集所を出て、選手紹介をされるまでは緊張していました。そこから名前を呼ばれて、自分のコース台まで歩いている頃に、もう緊張は消えていました。

 自分ではプレッシャーは感じていないつもりですし、声援と同じでそれも力に変わると思っています。でも、あのインタビューで号泣したってことは、自分では気づいていないプレッシャーがあったのかもしれないですね。重圧や不安な感情が一気に溢れ出したのかなって。中学生の頃に、全国大会で負けて号泣したことはあったんですけど、人前でうれし泣きをしたのは、あれが初めてだと思います。周りからは『もらい泣きした』って言ってもらえたんで、良かったですけど(笑)」

【次ページ】 「弱さ」を明るく語れる、池江の持つ「強さ」。

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