優勝争いから離れると、感覚が鈍っていくという恐怖。

　ただ石川は、そういう数字的な利害を重視していたわけではない。

　腰の故障で離脱し、日本で治療とリハビリに専念していた昨年の春。石川は人知れず、思いを吐露した。

「自分の目標はメジャーで優勝すること。そのために今いる場所は正しいのかなあって……」

　PGAツアーでの苦戦は、自分の実力不足ゆえというのは誰よりも理解している。その上で、今のまま惰性で最高峰の舞台に身を置いていて良いものか――。

「優勝争いをしていると、次はどんなショットを打とうとか、どうマネジメントしようとか、そういう感覚がラウンドしながらどんどん鋭くなっていくんです。もちろん予選通過ギリギリのところでもプレッシャーはかかるけれど、優勝がかかったときとは違う。（PGAツアーで上位争いをまったくできないことで）そういうフィーリングみたいのが、今は昔よりはるかに鈍くなっているような気がして……」

　サバイバルを生き抜けず、ギャラリーが埋め尽くしていたロープサイドは、閑古鳥が鳴くようにもなった。大勢の人に見られながらプレーするという緊張感と喜びは、15歳でスターになった石川にとっては、自分の技術を向上させる何よりのスパイスだった。

最高峰のツアーの喜びも、プライドもあったはずだ。

「幸い、アメリカでたくさんのコースでプレーしてきて、勝つためにはどれだけのレベルが必要かということは分かってきている。意識を高く持っていれば、ゴルフがうまくなる場所は必ずしも、アメリカでなければいけない、というわけではないかもしれない」

　失った自信を取り戻すために、ゴルフが上手くなるために「一時撤退」という手段があることは分かっていた。だがその決断には迷いが伴った。最高峰のツアーにいる喜びも、楽しさも、自分で切り開いた道へのプライドもあったはずだ。

　キャリア最悪の故障によって、何年ぶりかに過ごした日本の春。ふとした瞬間、石川は夜空を見上げた。「こんなこと、久しぶりですよ。だからこういう機会もなかなかないし」。街灯に照らされた夜桜をスマートフォンに収めていたその表情は凛としていて、どこか複雑だった。

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