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吉田麻也を正当に評価してもらう。
戸田和幸「日本人CBで総合力No.1」 

text by

茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2017/09/18 09:00

吉田麻也を正当に評価してもらう。戸田和幸「日本人CBで総合力No.1」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

表情もザッケローニ体制時以上に風格が出てきた吉田。イングランドで揉まれた経験値は伊達ではない。

アグエロ、サンチェスを止めれば評価は突き抜ける。

――昨季はリーグカップ決勝でマンチェスター・ユナイテッドと対戦。イブラヒモビッチとのマッチアップで渡り合う場面もありました。

「相手ストライカーに対して臆することなく正しいタイミングでコンタクト出来るようになってきたし、チャレンジするべきかする格好を見せて下がるかといった判断も洗練されてきましたが、頭で考えて理解出来ていることをピッチ上でその通りに実践できるようになってきたのだと思います。またサウサンプトンというチームはガッビアディーニやタディッチ、ロング、セドリックにバートランドなど一流の選手は揃っていますが所謂スーパーな選手はいません。

 ですからプレミアリーグの中ではあくまでもグループとして闘っているチームです。

 そういう意味ではサウサンプトンというチームが持つグループで闘うというチームスタイルに於いてセンターバックに求められる役割としてはパス出しの能力、前線と中盤のプレスに連動したポジショニングや戦術的なコーチングといった要素が必要となりますがそれは吉田選手の持つ能力に非常に合致していると思います。

 これが例えばイングリッシュスタイルが色濃く残っているレスターやバーンリー、または基本劣勢を強いられる昇格組といったクラブになるとセンターバックに求められる仕事は強靭なフィジカルを持った上で来たボールを跳ね返すことが主な仕事になってきますので仕事の内容は大きく変わります」

――とはいえ、プレミアではマッチアップするストライカーも世界有数の選手たちです。どうしてその中で吉田選手は戦えているんですか?

「例えば第2節のウェストハム戦、後半29分のシーンが象徴的です。左サイドのクレスウェルから入ったクロスを、スティーブンスと吉田選手の間に入り込んだサコにヘディングされ、バーに当たったボールをチチャリートに押し込まれて同点ゴールを決められました。あの状況で吉田選手は展開された状況に対してしっかりスライドしつつサコの事も意識出来ていましたが、それ以上にクレスウェルのクロスのタイミングが少しだけ早くまた質が高かった。展開に対する予測と反応が出来ていてポジショニングもほぼパーフェクトに取れていてもそのほんの少しの遅れやズレが失点に繋がってしまう。それが世界のトップレベルのサッカーだと言えますし、吉田選手が生きている世界の日常だと思います。

 たったワンステップ、ほんの少し体の向きを間違ってしまったらやられてしまう、これは以前本人から直接聞いた言葉ですがその世界にいる者だからこその説得力がありました。

 例に挙げた試合ではその一瞬を突かれてしまいましたが、そういったレベルのやり取りを日常的に経験できているのは日本人センターバックでは彼一人だけですし、その極めて高いレベルの闘いにおいて着実に成果を挙げられるようになってきたからこそ、3年間の契約延長や8月のクラブ月間MVPに選ばれるといった結果が出ているのだと思います。

 これは他のなにを持ってしても補う事が出来ない絶対的な事実であり、世界トップレベルのせめぎ合いの中、彼はまさに生きた経験を日々積み重ねているのです。

 そしてそのウエストハム戦では失点した後、終盤には攻撃参加をして自らがPKを獲得するなど最終的にチームを勝利に導いた。

 センターバックとしてのパフォーマンスだけでなく、逆境に対するメンタル面でのたくましさも感じる事が出来ました」

――いわゆる“やられる”状況すら、生きた経験と言えるのかもしれません。

「マンチェスター・ユナイテッドとのリーグカップ決勝でも、最終的にはイブラヒモビッチにヘディングでやられてしまいました、先ほど話したウエストハム戦、昨シーズンで言うとマンチェスター・シティ戦ではCKからコンパニに上からヘディングを叩きつけられて決められましたし、アーセナルのサンチェスには難しい状況にての最後体を投げ出して止めに行きましたが、そのわずかな遅れが決定的な遅れとなりシュートフェイントで完璧にかわされ決められたものも僕個人としては印象に残っています。

 それは本当にほんの少しの遅れやズレがきっかけとなり失点に直結しているのですが、それを実際に言葉ではなく身を持って体験し知っている、これが何よりの強みになりまた財産にもなるのです。

 だからこそ彼は非常に丁寧にまた細やかな仕事をするし、味方に対しても要求する。その「感覚」と「理論」は日本サッカー界にとっては文字通り宝となるものですから、代表チームにおいても今まで以上にリーダーとしてチームを引っ張っていく働きを期待しています。

 そして付け加えるとすれば、今シーズンは上に挙げた世界トップの選手達との闘いにおいて、昨シーズン以上の結果を期待していますしそれが叶った時にはセンターバックとして突き抜けたレベルへ進むことになると思います」

【次ページ】 クラブより代表の方が仕事が難しいのでは?

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