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『情熱大陸』が大切にしていること。
PとDが語る“距離感、視界”の作法。 

text by

茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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photograph byAsami Enomoto

posted2017/09/17 07:00

『情熱大陸』が大切にしていること。PとDが語る“距離感、視界”の作法。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

最終予選オーストラリア戦で献身的なプレーを見せた大迫。申ディレクターいわく、普段の大迫は「シャイな」好青年だったという。

「あなたのことを、気にしていますよ」の距離感。

 このコンセプトを、どのように現場で実践しているのか。続いては現場で実際に取材を担当するディレクター、申成晧と板倉弘明に聞いてみた。

「4カ月で相当仲良くなるって、普通に考えても難しいじゃないですか(笑)」

 冗談めかした申は、今回の特集にあたって10数回にわたって大迫に密着したのだという。そのプロセスでは大迫が負傷するという想定外の事態もあった。ただそこでも毎日密着するのではなく、タイミングを見て“この日だ”と判断して取材に向うのだという。

 取材現場での1日を、具体的に明かしてくれた。

「撮影初日、彼がドイツから帰国して、1日で色々なメディア対応をするという日だったんですよ。その時はずっと彼の邪魔にならない位置にずっといて、本人に直接話を聞いたのは1回だけでした。あとの時間帯、他のメディアなどの取材を受けているときはカメラを回しながらとはいえ、大迫選手のことを見ているという形です。“あなたのことを、気にしていますよ”。まずそのくらいが、お互いの位置関係だろうと考えていました」

大事な質問を聞くチャンスは、1回だけである。

 同時に「欲張っている感じは出さず、1度の取材で1つの要素が取れればいい」とも話している。実際、大迫本人にW杯についての想いを質問したのは1回だけだったという。

「毎回、そういった質問は記者の方々に聞かれまくっているわけじゃないですか? そこで自分が聞いても同じような答えしか返ってこない。だからこそ極力聞かないようにしています。番組にするにあたって、W杯以外にも聞かなきゃいけないことは多くある。“チャンスは1回だけだ”と言うのを念頭に入れつつ、大迫選手はじめ周りの現場感や雰囲気で“今、聞ける”というタイミングを逃さないようにしています」

 一方、板倉の場合はどうか。以前楽天に数カ月帯同したことがあり則本とは面識があった。彼の方法論にも、ドキュメンタリーの難しさが滲む共通点があった。

「なるべく視界に入らないことです」

 こう切り出すと、撮影テクニックについて明かしてくれた。

【次ページ】 普段通りの空間、光景がカメラの前で起きると……。

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情熱大陸
大迫勇也

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