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なぜサニブラウンはオランダ修行に?
国の枠を越えて才能を集める強化策。 

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及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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photograph byAyako Oikawa/Takashi Shimizu

posted2017/08/05 09:00

なぜサニブラウンはオランダ修行に?国の枠を越えて才能を集める強化策。<Number Web> photograph by Ayako Oikawa/Takashi Shimizu

オランダ陸連の強化委員長ロスカム氏。陸上選手としてのキャリアはないが、先進的な強化体制でサニブラウンも快く受け入れられた。

バートレッタなど超一流がオランダに続々と集結。

 当然レイダーコーチの仕事はオランダ選手の強化だが、海外選手の指導も認められており、現在は北京世界陸上200m金メダルのダフネ・シパーズなどオランダ選手8人のほかに、三段跳で五輪連覇のクリスチャン・テイラー(米国)、リオ五輪で走幅跳金メダルのティアナ・バートレッタ(米国)、北京世界陸上女子走幅跳び銀メダルのシャラ・プロクター(英国)をはじめ、海外選手7人を加えて合計15選手を指導している。

「オランダの選手がレベルの高い海外選手と練習することで、いい刺激がもらえると思う。常に世界を感じながら練習できるのは大きい。また海外選手にはオランダ選手がステップアップできるように手助けしてほしいと思っている」とロスカム氏は期待を寄せる。

 その言葉通り、オランダの選手たちは日々高いレベルの選手と練習できるほか、ベテランの海外選手は練習中に若い選手にアドバイスしたり、調子が良くないときは励ましたり、メンター的な役割も果たしている。レイダーコーチの指導する8選手中7人がオランダ代表権を獲得したように、ロスカム氏の強化策は順調だ。

ロスカム氏は実は元水泳選手……なぜ?

 ロスカム氏は元々水泳選手で、その後、水泳コーチ、オランダ水泳連盟の強化委員長、オランダ五輪委員会を経て、2014年からオランダ陸連の強化委員長を務めている。

 水泳の強化委員長だった2000年シドニー五輪でオランダは金メダル12個を含め、25個のメダルを獲得した。その際に「代表選手を1つの場所に集約して、外国人コーチの下で一緒に練習させる」という強化方法を採用し、成功を収めた。

 そのため陸連の強化委員長に就任するとすぐにレイダー氏を短距離・跳躍コーチとして招聘したほか、4人のオランダ人コーチを陸連コーチとして雇い、現在は多くのトップ選手が彼らのもとで練習を行っている。

 水泳から陸上と全く異なるスポーツの強化に携わっているが、「オランダでは(競技間で移動するのは)珍しいことではないですよ。五輪委員会の時は体操の強化にも関わりました。強化方法の本質はすべての競技に通じていると思います」と話す。

 水泳では米国人コーチを、体操では日本人コーチを雇ったこともあると言う。自国にいない人材は他国から採用し、彼らのノウハウを選手やコーチに伝えてもらうことで、自国のコーチや選手の育成になると考えている。とても合理的な発想だ。

【次ページ】 「オランダを離れても、ハキームを応援しているよ」

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