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満天の星降る、新江ノ島水族館を巡る
ナイトワンダーストーリーズ 第二話

posted2017/08/09 11:00

 
満天の星降る、新江ノ島水族館を巡る ナイトワンダーストーリーズ 第二話<Number Web> photograph by 新江ノ島水族館/Tsutomu Sakihama

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新江ノ島水族館×文藝春秋

新江ノ島水族館×文藝春秋Enosui×Bunshun

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新江ノ島水族館/Tsutomu Sakihama

新江ノ島水族館で開催中の「ナイトワンダーアクアリウム2017 ~満天の星降る水族館~」と文藝春秋各誌による特別企画「ナイトワンダーストーリーズ」。夜のえのすいを巡るショートストーリーズ第二話は、甲子園を目指す高校生の物語です。

第二話アカエイと甲子園

 世の中には不運があり、不幸がある。

 不幸はしばしば、不運から始まる。しかし、不運がいつも、人を不幸にするとはかぎらない。スポーツライターである私に、この夏そう思わせてくれたのは、大物スラッガーとして知られた高校3年生の野球部員だった。

 彼の高校は強豪校ではなかった。彼を含め打撃力は申し分なかったが、投手力が圧倒的に弱かった。だが、この春入部してきた1年生投手が新たな戦力となった今年、彼にとって夏の甲子園は、決して遠くはないはずだった。

 しかし、8月、彼の姿は自分の高校のグラウンドにあった。正確には、そのバックネット裏に。

「何でこんなことに、って思いました。県大会の初戦も圧勝して、甲子園を目指していたのに、何でだって」

 彼はそう話し始めた。

 県大会2回戦前日から天候が崩れ、試合は順延となった。それが不運の始まりだった。3日たってようやく大会再開が決まった時、1年生投手が声をかけてきた。

「ずっと体育館練習だったから、マウンドで投げさせてくれって言うんです。練習はもう終わっていたので、ダメだって断ったら、『でも、2回戦も僕が投げることになるだろうし』って」

 先発の3年生が完投できるはずがない、と言いたげな様子だった。調子に乗るな、と出かかった言葉を飲み込み、彼は打席に立ってやることにした。

 初球は内角低めの速球ストレート。見逃した彼が顔を上げると、相手が帽子の陰で薄く笑ったのが目に入った。おそらく安堵の笑顔だったのだろう。だが、その瞬間、彼はカッとなった。

「さっきのこともあったんで、急に『ふざけんな』って血が上っちゃって。そこからアイツが投げてきた2球目は、スローモーションみたいに思い出せます。全力の速球がシュート回転して、思いっきり内角の高めに入ってきた。ほとんど暴投でした。でも、こっちも完全に打ちに行ってたから、もう止められなくて。『マズイ!』と思うのと、左手に衝撃を受けたのと、同時でした」

 左手中手骨骨折、全治3週間。試合出場は不可能となり、チームは2回戦敗退。彼の高校野球は終わりを告げた。

 何をする気にもなれない彼を外へ連れ出したのは、ガールフレンドだった。

「新江ノ島水族館で『ナイトワンダーアクアリウム』っていう夜のイベントをやってるんだって。見に行こうよ!」

 断る気力もなく、彼は江の島へ向かった。17時を過ぎた水族館は、「ナイトワンダーアクアリウム2017 ~満天の星降る水族館~」という名のとおり、夜空のような照明の中に青く浮かび上がる水槽が美しく、カップルや家族連れで賑わっていた。が、彼には正直なところ、どうでもよかった。1階・2階を貫く相模湾大水槽で上映されるプロジェクションマッピングが見たいと彼女にせっつかれても、「ここでいいよ」と2階のベンチに陣取って動かなかった。

 だが、いざ上映が開始されると、彼の目は釘付けとなった。

「大水槽にものすごい数の魚が泳いでいて、その周りに星とか不思議な海の生き物とかの映像が、次から次へと飛び出してくるんですよ。2階から見てると、映像の中のめちゃくちゃデカいタコと目が合っちゃったりして。とにかくすごい迫力だったんです」

 そんな映像と大水槽の魚たちを見つめているうち、彼は思ったのだという。

「オレ、ちっちゃかったなぁって」

 少しだけ笑って、彼は続けた。

「『1年のくせにイキりやがって』ってムカついたんですけど、オレだって1年の時は『先輩だって打ち負かしてやる』って思ってた。そんなオレを先輩たちは育ててくれたんですよね。だからオレも、あのアカエイみたいにでっかく構えて、『どこへでも投げてみろ』ってアイツのこと受け止めてやればよかったんだ。オレがガキだったんだ。大水槽を見ながら、そう思ったんです」

 帰り道、彼は、野球部の練習帰りらしい高校生たちとすれ違った。

「地元のS高かな、1年生かな。そんなこと考えてたら、明日はアイツらの練習を見に行ってやろうって、素直に思えました。アイツらには、マジで甲子園、狙ってほしいですからね」

 不運が、すべての人を不幸にするわけではない。彼の高校野球は終わったが、できれば大学に進学して、神宮を目指したいそうだ。

「でも、赤点が3つもあって、今日もこれから補習なんです」

 じゃ、と笑って彼は校舎へと走り出した。左手をかばいながら走っていく背中は、前より少し、大きく見えた。

新江ノ島水族館ナイトワンダーアクアリウム2017 ~満天の星降る水族館~開催中

“えのすい”こと新江ノ島水族館では、17時からのスペシャルイベント「ナイトワンダーアクアリウム2017 ~満天の星降る水族館~」を開催中。幻想的な映像コンテンツと美しいオリジナル音楽が生み出す、未知なる感動体験をお楽しみください。
※一般入場料のみでお楽しみいただけます。

開催期間:2017年7月15日(土)~12月25日(月)

休催日:10月21日(土)

  • [パート1] 7月15日(土)~9月30日(土) 17:00~20:00
  • [パート2] 10月1日(日)~11月23日(祝・木) 17:00~19:00
  • [パート3] 11月24日(金)~12月22日(金) 17:00~19:00
    12月23日(祝・土)~12月25日(月) 17:00~20:00
 新江ノ島水族館

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