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元嫌われ者がマスターズを勝つまで。
ガルシアが捨てた驕り、学んだ感謝。 

text by

舩越園子

舩越園子Sonoko Funakoshi

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photograph byAFLO

posted2017/07/04 08:00

元嫌われ者がマスターズを勝つまで。ガルシアが捨てた驕り、学んだ感謝。<Number Web> photograph by AFLO

セルヒオ・ガルシアは、「暴れん坊」を意味するエルニーニョというニックネームが、すっかり似合わない男になった。

会見では憎まれ口、ギャラリーにも反撃。

 フラストレーションが溜まっていったせいだったのだろうか。いつしかガルシアは何度もグリップを握り直さなければスイングを始動できない奇妙な癖に苛まれるようになり、それが野次のターゲットにされていった。

 ギャラリーの間から「早く打てよ!」と怒声が飛ぶと、まだ若かったガルシアは野次を受け流すことなど到底できず、火がついたように反撃してさらなる野次を煽る。そんなことを繰り返していたガルシアは、やがてツアー仲間たちからも疎まれるようになった。

 2007年全英オープンはガルシアがメジャー優勝に最も近づいた大会だったが、それは彼の悪態と、周囲からの疎まれ具合が最大化した大会になってしまった。

 初日から首位を独走していたガルシアは、会見で毎日生意気な言葉ばかりを口にして反感を買い、挙句に最終日はパドレイグ・ハリントンにプレーオフに持ち込まれて敗北。世界のメディアはハリントンを持ち上げて「ナイスガイが勝つ」と報じ、「ナイスガイではないガルシアは、だからこそ勝てなかった」とこき下ろした。

 以後、ガルシアの悪態はエスカレートの一途となった。ルールの裁定に不服があればルール委員にシューズを投げつけ、パットの不調に苛立てば、カップに唾を吐いた。

「アメリカはオマエが嫌いなんだよ、セルヒオ!」

 そんなガルシアに酷い言葉が投げつけられた2008年のメモリアル・トーナメントは今でも忘れられない。

「アメリカはオマエが嫌いなんだよ、セルヒオ!」

 ガルシアは言い返すことすらできず、フェアウェイの真ん中に無言で立ち尽くした。あの言葉、あの出来事は、ガルシアの心に鋭く突き刺さったのだと思う。

 それからはガルシアの悪態は見られなくなったが、彼の闘志も感じられなくなった。

 そして2010年の終わりごろだったと思う。

「ゴルフへのモチベーションが無くなった」

 試合会場の片隅で、親しくしていた数少ない米メディアの1人に彼がそう漏らしたという話を、私は偶然、耳にした。

【次ページ】 戦う意欲を失いかけていた彼を救ったものは……。

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セルヒオ・ガルシア

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