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「180/86400秒」を探ったTOYOTAに、
今年も微笑まなかったル・マンの女神。 

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大串信

大串信Makoto Ogushi

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posted2017/07/05 11:15

「180/86400秒」を探ったTOYOTAに、今年も微笑まなかったル・マンの女神。<Number Web> photograph by TOYOTA

トヨタの後ろで圧力をかけ続けていたポルシェ。

 今年のル・マンもスタートして3時間、レースの順位だけならば1-2のトヨタ、3番手のポルシェと順位は変わらず戦いは淡々と推移しているように見えたかもしれない。しかし3番手のポルシェはトヨタが余裕を確保して安全率を高めてしまわないようオーバーペースのリスクを抱えながら全力でトヨタをしつこいまでに追いかけ続けた。一方のトヨタはなんとかポルシェを振り切って自分にかかる負荷を軽減したかったがそれを許されず、限界線上を走り続けなければならなかった。

「2台で逃げられれば良かったんだけど、これは簡単には勝てないぞ、と思いましたよ」と序盤の展開について小林可夢偉は語る。それは引くことのできない意地の張り合いであった。真夏の太陽が容赦なく照りつけるコース上では一触即発の膠着状態が続いた。

 スタートして3時間30分、ついに動きが生じた。ポルシェの2号車がトラブルを起こして大きく遅れ、トヨタ3台、ポルシェ2台で始まった総力戦の一角が崩れたのだ。

 トヨタにプレッシャーをかけ続けて自壊へ追い込もうとしていたポルシェにとっては戦略の一部が綻んだという意味で大きな痛手だった。だが残ったポルシェ1号車はペースを落とすことなく首位を走るトヨタ7号車に圧力をかけ続けた。勝つためにはそれ以外の道はなかった。

 その戦略が働いたか、次の問題はトヨタに起きた。スタートから8時間、2番手を走り後方のポルシェを抑え続けてきたトヨタ8号車がマシン前部から白煙を吹いて緊急ピットイン、順位を大きく下げてしまったのだ。この結果、ポルシェ1号車は2番手へ進出を果たした。

 首位はトヨタ7号車、2番手にポルシェ1号車。その差は1分程度。その後方にはトヨタ9号車が続いてはいたが、ポルシェはトヨタにプレッシャーをかけ続けた結果、いつの間にかトヨタの優勢を切り崩して一騎打ちに持ち込んでいた。まさにポルシェの狙っていた展開であった。

 トヨタは逃げ、ポルシェが追いすがる。その間、トヨタとポルシェは次々に現れる周回遅れのマシンをかき分けるように追い抜く。太陽が落ちコースが暗くなると、ドライバーたちはヘッドライトで照らし出される狭い視界の中で自分の進路を見極めて先を急ぐ。タイミングを一瞬誤ればトップ争いとは関係ないマシンと絡んでレースを台無しにしかねない。

 緊迫した意地の張り合いは続いた。そしてスタートから10時間。トップを走り続けていたトヨタ7号車に突然不運なトラブルが発生した。さらに追い打ちをかけるように、後方からトヨタの陣容を支えていたトヨタ9号車にも、減速時に他車に追突される形でクラッシュ、走行不能になるという不運が襲いかかった。今年、初めてル・マンに挑戦した国本雄資は「順位はともかく、とにかく24時間レースを走りきりたかったので、残念でした。気が抜けてしまいました」と言う。

 こうして先頭にはポルシェ1号車が躍り出た。レースがスタートして12時間、安全率を捨て、息を止めて我慢比べのような全力疾走を続けてきたポルシェは、ライバルの脱落を受けて初めてそのペースを落とし、安全率を上げて残りのレースを走りきる作戦に転じた。ポルシェは戦略でレースの主導権をトヨタから奪い、ようやく本来の耐久レースへ戦略を切り替えたのである。

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