休んでいるうちに内藤がその座を奪っていった。

　試合中にも関わらず、棚橋はかなりのショックを受けずにいられなかった。

　棚橋が思い描いた「復帰」がうまくいかずに遅れて、NEVERの6人タッグ戦などで、お茶を濁している間に、棚橋が占有していた自分のファンゾーンに、内藤が浸食してきていたからだ。

　実際、昨年のG1クライマックスでも苦杯をなめた。

　欠場明けだったが、スタートで大きくつまずいてギリギリで奮起したが、力尽きて優勝戦には進出できなかった。

　その後も、棚橋のカムバック作戦は思うように進まず、試合には出ていたが、1.4でのIWGPヘビー級王座の挑戦権獲得にもたどり着けず、同大会での内藤とのインターコンチネンタル戦をごり押しするのがせいぜいだった。

　結果、内藤のベルトには挑戦こそできたが、いいようにされて、ピンフォール負けした。

がむしゃらに内藤にぶつかっていった棚橋の姿。

　そしてまた今回、無理やり内藤に再戦を迫ったのに、まさかのタイミングの悪さでケガをしてしまった。それも、重傷だった。

　タイトル戦の2日前に試合に戻ってきてはいたが、「これで戦えるのか？」と疑ってしまうくらい動けていなかった。タイトルマッチを直前に控えているはずの選手が、腕を押さえてリング下にうずくまっている姿はあまりにもみじめだった。

　棚橋にあとはなかった。

　もし、大阪城で内藤に打ちのめされたら、もう這い上がれなかったかもしれない。だから棚橋はなりふり構わず、自分から内藤に仕掛けていった。

　内藤コールで打ち消された棚橋コールの衝撃が、棚橋を目覚めさせた。

【次ページ】　過去の自分ではなく、未来の自分を見つめていた棚橋。