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伊藤壇と考える、日本代表の伸びしろ。
沸騰するアジア・サッカーの現場から。 

text by

吉崎エイジーニョ

吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki

PROFILE

photograph byEiji Yoshizaki

posted2017/06/13 11:30

伊藤壇と考える、日本代表の伸びしろ。沸騰するアジア・サッカーの現場から。<Number Web> photograph by Eiji Yoshizaki

今までプレーした国の地図を広げて説明してくれた伊藤。サッカー選手という枠を越えた、大きな存在感のある人物だ。

アジアで経験した、圧倒的な「多様性」。

 日本と何が違うのか。

 例えばヨーロッパの自己主張について語られる場合、バックボーンとして「キリスト教」「哲学」「個人主義」といったキーワードが挙げられる。筆者自身もかつてNumber本誌で連載していたドイツ下部リーグへの挑戦で経験してきたが、欧州には一般的に日本のような感覚の“年齢による上下関係”が存在しない。

 いっぽう伊藤の言葉からは、アジアの自己主張の背景には“多様性”も影響があるように感じられた。

 '09-'10年にプレーしたインド、ゴア州のチャーチル・ブラザーズSCではこんな場面を目にした。

「ここのチームがまとまっていくためには……言語の問題が大きかったですよね。ゴアの選手、カルカッタの選手が別の言語を話していたので。自然と試合前のボール回しからそれぞれの言語の選手で分かれるんですよ。さらに外国人選手も別のグループになって。食事中もそれぞれの言語の選手で集まる、という状況でした」

ゴール前でこそ、そのお国柄が最もよく出る。

 '01年にシンガポール、'05年にマレーシアでプレーしたが、そこでも中国系、マレー系、インド系が入り混じる形で、人種、文化、言語が違う選手たちが同じチームでプレーする姿を観てきた。

 伊藤は言う。

「言葉に出したり、目に見える数字を残さないと分からないことが多い。いっぽうでそうやることによって、その人の考えや存在を再確認できるということもあるんです」

 トップ下でプレーする伊藤にとって、特にピッチ上でアジアのチームメイトの「主張」を感じられるのは、ゴール前でのシーンだったという。日本以外のどこの国でも同じことだが……そこでボールを持ったら、まずは自分がシュートを打つことを第一の選択肢にする。

 伊藤はそんな場面で、意図的に「日本らしさ」を発揮することもあるから、よく分かったのだという。ゲームに点差がついている状況では伊藤自らもシュートを積極的に打つようにしていたが、均衡している場合には状況に応じてより良いポジションにいる味方にパスを渡す。するとチームメイトからの信頼度アップに効果てきめん、ということになるのだという。特にゴールが決まった時などには、本当に強い謝意を示されるという。裏を返せば、伊藤のようなプレーの選択をする選手がほとんどいない、という話でもある。

【次ページ】 カースト制度の影響を感じた瞬間。

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