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東京五輪マラソンのメダルは可能か。
平均は上がれどトップが伸びず……。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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posted2017/06/09 07:30

東京五輪マラソンのメダルは可能か。平均は上がれどトップが伸びず……。<Number Web> photograph by Kyodo News

スズキACの安藤友香が出したタイムは、野口みずき、渋井陽子、高橋尚子に次ぐものだった。ちゃんと狙えば、選手はちゃんと育つのだ。

全体のレベルは上がっているが、トップが伸びていない。

 原氏のデータで面白かったのは、2007年と2017年の箱根駅伝に参加した学校の10000m上位10人の平均タイムの比較。

 2007年のトップは順天堂大で、29分00秒60。平均で28分台のチームはない。それが2017年になると、平均で28分台に突入したチームが3校出てくる。

青山学院大 28分41秒54
山梨学院大 28分55秒93
日本体育大 28分56秒58

 10年で着実に進化しているわけだ。「しかし」と原氏は言葉をつなぎ、「トップランナーのタイムはそれほど変わっていないんです」と指摘した。2007年のトップは佐藤悠基(東海大→日清食品グループ)、2017年は中谷圭佑(駒澤大→日清食品グループ)だが、タイムはほぼ変わらない。これは何を意味するのか。

 原氏はいう。

「チームとしての成長はハッキリ見受けられ、ボリュームは出ています。ただ、トップのキャラクターが出てきていないわけです」

 箱根のスターは登場しても、学生の中から国民の誰もが知っているようなマラソンランナーが育っていないのだ。

実業団も、やはりマラソン重視のところは少ない。

 それは実業団も同じだ。社会人ランナーでいちばん有名なのは、川内優輝(埼玉県庁)だろう。企業の場合、「社員の士気向上」のために駅伝に力を入れざるを得ない事情がある。

 近年、駅伝からマラソンへの移行が学生でも見られるようになってきたが、中国電力で何人ものマラソン選手を育てた坂口コーチは「駅伝とマラソンでは『設計図』が違います」と端的に指摘、「マラソン重視」への発想の転換を促した。

 ただし、帝京大の中野孝行監督からは「マラソンはやらせるものじゃないですからね」という意見も聞かれ、指導者だけではなく、トップ選手の意識の改革も必要なことがうかがえた。

【次ページ】 スズキ浜松ACは、スポンサーぐるみでマラソンに注力。

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瀬古利彦

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