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1年2カ月の空白は何を変えたのか。
桃田賢斗が復帰戦で選んだ新戦術。 

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鈴木快美

鈴木快美Yoshimi Suzuki

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posted2017/06/03 07:00

1年2カ月の空白は何を変えたのか。桃田賢斗が復帰戦で選んだ新戦術。<Number Web> photograph by AFLO

出場停止明けながら即優勝した桃田。本来の戦いぶりは復帰戦以降でこそ見られるのかもしれない。

対戦相手が「今までだったら……」。

 話を冒頭に戻すと、今回の試合内容の稀少さは、桃田がフェイントで相手を翻弄することより“シャトルを早く打ち返すこと”を、ペース配分の巧みさより“がむしゃらさ”を優先していたことにあるだろう。

 桃田を世界ランク2位まで押し上げたのは、ヒット直前まで羽根をラケットに引きつけ相手の足を止め、予測の逆を突いて相手のリズムを崩す技術の高さにある。だが独特のタメは、ときにのらりくらりした印象を与える。

 また初戦で対戦した元チームメイトの和田周はこんな話をしている。

「今までだったら序盤、様子見で来るのに最初から全力で来て驚いた」

 桃田が「相手がどんな強い気持ちで来ても、“かかってこいよ”と押し返す自信があった」と過去を振り返るように、受け身から始まるプレーは対応力に優れるがゆえに可能だった。だが見る人によっては、これもまたのらりくらりの印象を与える。

体に負担がかかるプレーも、決意の表れ。

 試合から離れていた桃田にとって、駆け引きでの勝負を仕掛けることはリスクが高かったのかもしれない。

 もしかすると、「一球一球を大切に、感謝を込めて全力でプレーするところを見てもらいたい」と話した桃田にとっては、体に負担がかかるプレーを貫くことが決意の表れだったとも考えられる。

 決勝戦、87分と長い試合になり、最終ゲームにもつれたのもそんなところに理由があるのだろう。

 相手は日本代表の上田拓馬。1ゲームを先取するが、2、3ゲームは弾道が低くアップテンポを好む上田のリズムに嵌った。

 以前であれば、手首中心の操作だけでコースに変化をつけ、上田の体勢を崩すところだが、すべてのラリーをできるだけ速くし、羽根へのタッチの早さを優先する今回は劣勢に回った。

 3ゲームの16-18で上田がチャンス球をアウトにし、流れを一気に引き戻して優勝したが、いかにも苦しい展開だったといえる。

 勝利を決めた後、コートに顔を伏せて涙を流した理由は、「辛いときに支えてくれ、バドミントンの環境を作ってくれた方への思いのすべてが込み上げてきたから」と話した。

【次ページ】 「バドミントンは創造性が大事。時にはリスクを」

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