セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
本田圭佑の何が敬意を呼んだのか。
ミランが最後に主将を託した理由。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2017/05/30 17:00
今季、本田圭佑の存在感はほぼ皆無だった。それでも最後に敬意で送り出してもらえるのは、それまでの貢献を認められていたからこそなのだ。
「出番が激減した本田は当初、落ち着きがなかった」
2年目の序盤にはゴールを量産した。昨季はクラブ批判発言騒動で一時干されたがレギュラーを奪回、ミラノ・ダービーではサン・シーロのスタンディング・オベーションを浴びた。
だが、名門ミランの10番という華々しいイメージとは裏腹に、本田はつねにもがき、足掻き続けた3年半だったように思う。
「今シーズン、出番が激減してベンチにいた本田は当初、挙動不審というか、周囲を窺ってばかりで落ち着きがなかった」
証言の主は、現地のTVカメラマンである芦田正人だ。
NHKのサッカー番組用に映像素材を撮影する芦田は、三浦知良の時代からセリエAに挑戦する日本人選手とファインダー越しに向かい合ってきた。いわばイタリアにおける日本サッカーの生き証人だ。
カメラマンが気づいた、本田の周りにできた「輪」。
芦田は今季の本田について、あることに気づく。
「本田はアップ中だろうが、ベンチにいるときだろうが、どんなときでもゲームから目を離したことはなかった。目の前の試合に自分が納得できるのか、できないのか。いつでも、誰かに訴えたかったように見えた」
初めは周囲の誰もが本田の言葉を話半分に聞いているのが、ファインダー越しに見て取れたという。しかし、本田は気にせずゲームを見て話し続けた。気になるプレーや些細な展開があったら、とにかく話しかけた。もし周りに選手がいなければ、チームスタッフでも誰でも構わず、英語とイタリア語を混ぜながら話しかけていた。
「とにかく相手に伝えよう、巻き込もうという意欲が伝わってきた。すると、最初はDFサパタだったり、MFソサだったり、限られていた聞き手が増えてきた。交代出場する選手に声をかけたり、逆にピッチから下がってきて不満そうなFWバッカにも話しかけたり。本田はどんどん輪を広げていった」
今季、本田がベンチで過ごした試合は実に28試合に上る。
「ベンチにいるからといって戦力外じゃない。もちろんプレーしたいのは当たり前。けれど、出られないことを自覚しつつ、コミュニケーションを取り続けることでベンチでチームのつなぎ役になる。それが、彼なりに考えた今シーズンの“ミランの10番”像だったんじゃないかな」