「ベースボールという名のゲーム」にリスペクトを。

　2001年9月11日に同時多発テロが起きて、中止になっていたメジャーリーグが再開された日、ジーター自身が言っていた言葉を思い出す。

「たとえ2、3時間でもいいから、人々が世の中に起こっていることを忘れてベースボールを楽しみ、彼らに笑顔が戻ってきてくれればいいと思う」

　何人たりとも、「ベースボールという名のゲーム」を邪魔することはできない――。

　ジーターの永久欠番セレモニーが終わり、アストロズの初回の5安打6得点の猛攻を眺めている内に、そんな思いに駆られた。

　その日の観客の多くは確かに、ジーターの永久欠番セレモニーのためにヤンキースタジアムを訪れていたはずだが、そこにはメジャー最高勝率で勝ち進むアストロズのファンもいれば、アストロズの青木宣親やヤンキースの田中の応援に駆け付けた日本人ファンだっていたのだ。本塁打を量産して人気急上昇中のアーロン・ジャッジ外野手や、新世代の中心選手ゲイリー・サンチェス捕手のファンだっていただろう。

　彼らはかつてのスーパースターの永久欠番セレモニーを祝いながらも、「ベースボールという名のゲーム」に没頭するために、その場にいたのだと思う。

　ジーターはなるべく、永久欠番セレモニーを粛々と行いたかった、と関係者から聞いた。

　そりゃあ、そうだろう、と思った。なぜなら、それはヤンキースのもっとも新しい永久欠番＝背番号2の最後の持ち主は、誰よりも「ベースボールという名のゲーム」を心の底から愛し、リスペクトしているのだから――。