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オークランドで繰り広げられた、
“テニス選手”杉村太蔵、37歳の熱戦。 

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2017/05/11 11:20

オークランドで繰り広げられた、“テニス選手”杉村太蔵、37歳の熱戦。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

これが試合を決めた時のサーブ! この1本で、37歳から一気に10代の気分に戻った杉村。

ついに……伝家の宝刀の鋭いサーブが決まった!

 ここで制限時間が迫り、次のゲームを獲得したほうが勝者になることが告げられる。

 お互いに譲れないゲームだけに一進一退の攻防が続き、デュースまで持ち込まれるが、そこからの杉村がすごかった。

 サービスエースでアドバンテージをとると、マッチポイントではサービスコートぎりぎりをえぐるような鋭いサーブ。ジェームスは全く動くことができず、そのままゲームセット。

 見事勝利を収めた。

10代の頃のプレースタイルのままだと勝てない!?

「マッチポイントでのサーブは、僕も驚きました。あの左からサイドに打つサーブ、ずっと日本で練習してたんですけど、1度も入らなかったんですよ。それがあの大切な場面で決まるんですね。

 ただ、最初のゲームは20点。簡単なボレーも決まらないし、2ゲーム先取されたときは、どうしようかと思いました(笑)。いつもできることがなかなかできず、逆にできなかったことができることもある。これが試合の面白さですよね。

 海外の選手との対戦で学びもありました。僕は10代の頃のプレースタイルのままテニスをしてたんですが、ジェームスは緩急のつけかたがうまくて。手を抜いてるのかな? と思うほど緩いショットのあとに鋭い球が来たり、すごくやりづらかった。こういう技巧をマスターすることもテニスには大切なんですね」

 その夜も街を歩きながら「あのサービスは本当に良かった。我がテニス人生のなかで一番のショット、最高の思い出だなあ」と感慨に浸っていた杉村。

 ラケットを持たない手で素振りを繰り返し、ウィンドウに映る自分のフォームをちらりとチェックする。本当に試合が楽しかったことが伝わってくる。

「もちろん試合に勝てたのはうれしいんですけど、勝敗よりも37歳の自分にあのショットが打てたということに感動して。自分が狙った以上のサービスを打てる力が、今の自分にもあるんですね」

【次ページ】 勝敗を超えた、自分だけの感動を見いだせる大会。

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杉村太蔵

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