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「WBC後遺症」の議論に意味はない。
秋山も、筒香も、誠也も、大丈夫だ。 

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byKyodo News

posted2017/05/05 07:00

「WBC後遺症」の議論に意味はない。秋山も、筒香も、誠也も、大丈夫だ。<Number Web> photograph by Kyodo News

筒香嘉智は、日本プロ球界でも珍しいスタイルでバッティングと向き合う打者である。不調との向き合い方も、ひと味違うのだ。

秋山翔吾「WBCで記憶に残っている打席はあります」

 総じて、WBCという国際大会で、日本では見ないような投手と対戦したことで、侍JAPANの選手たちのバッティングが崩れた、ということはないのだと思う。しかし彼らが偉大なるバットマンであればこそ、さらに上を目指そうという気持ちが強くなったという意味では、「WBCの影響」は絶対にあるはずだ。

 なぜなら野球というスポーツは「抑えられた」、「捉えた」という記憶に基づいて、どのように自身の技術を進化させていくかという方向性を見出す競技だからだ。

 記憶力と創造が、アスリートを高みへと導いていく重要要素なのだ。

 秋山翔吾は言う。

「確かに、WBCで記憶に残っている打席はあります。その打席のことを想えば、ああいう風にしておけばよかった、こういうボールの見方をしておけばよかったなと、ボールへのコンタクトの仕方を考えたりはしました。

 それがシーズンに入って成長につながるかという意見は分かりますけど、でもそういう記憶って、シーズン中にもあるんですよ。ああすればよかった、こういうアプローチだったなぁとか。特に好投手との対戦や苦手としている相手との対戦では必ずある。それを反省して、次に生かしていく作業はいつもやっている。だから、WBCだからというわけではないと思います。WBCに光が当たりすぎちゃっているだけと僕は思います」

 4月21日に右翼スタンドに芸術的な本塁打を運んでからの秋山は、エンジン全開になったようだ。

 それ以前に秋山が放った安打15本のうち、右方向のものは2本しかなかった(うちひとつは一塁内野安打)。引っ張り込んで完璧に捉えた本塁打からは、秋山のバッティング技術が新たなステージへと踏み込んだことが見て取れた。

「ホームランの話をすると、バッティングが崩れるからその話題はやめましょう」と秋山らしくヒットへのこだわりを隠さなかったが、その後も秋山は右翼スタンドに決勝の本塁打を叩き込んだりしている。

高みを目指すならば、変化を怖れるわけにはいかない。

 筒香はこれから調子を上げていくだろう。鈴木もまだ彼の目指すバッティング像に向かっている最中だということは彼のコメントから読み取れる。

 彼らはまだまだ成長しようとしている。

 ほんの少しの期間、自分のバッティングができていなかったが、それは高みを目指すからこその通るべき道だった。

 WBC後遺症はあるのか、ないのか――。その議論に意味はない。

 彼らはそのような低次元のところで語る打者たちではないからである。

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