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「真剣勝負のプロレス」の実像。
UWFという“光”を再検証する。 

text by

伊野尾宏之

伊野尾宏之Hiroyuki Inoo

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photograph byWataru Sato

posted2017/03/09 08:00

「真剣勝負のプロレス」の実像。UWFという“光”を再検証する。<Number Web> photograph by Wataru Sato

佐山聡、藤原喜明、前田日明、高田延彦……。UWF旗揚げに関わる男達の生き様を追うノンフィクション。

前田日明が語ってきた歴史に一石を投じた一冊。

 前田はUWF創生から解散まで、ずっと中心人物であったのだから当然だ。前田が語ってきた歴史こそが、「UWFの歴史」であった。

 そこに、「そうですか?」と問いをかける人が現れた。

 その人の名前は柳澤健。

 デビュー作「1976年のアントニオ猪木」は単なるプロレス本の枠を超えて読書家たちの話題になり、一気に注目すべき存在となったノンフィクション作家だ。そんな柳澤氏がクラッシュ・ギャルズ、女子プロ、ジャイアント馬場に続いて題材に選んだのは「UWF」であった。柳澤氏は、当時の関係者への徹底した取材をもとに、「UWFとは何だったのか」を再構築する。

 そこで浮かび上がってきた「UWF」の実像とは、今まで私たちが知っていた「UWF」とはかなり違った色合いのものだった。

高田が船木にキャメルクラッチで勝っていいのか?

 正直、ショックすらあった。

 それは富士山を「静岡側から見るのが本当の富士山だ」と思ってきたわれわれに、柳澤氏が「いやいや山梨側から見るのも同じ富士山ですよ」と言っているような、そんな感覚だった。

 同じ景色を見ている。ただ、見えているものはかなり違う。

 北海道の少年だった中井祐樹は、高田延彦が船木誠勝にキャメルクラッチで勝つ瞬間を見て衝撃を受ける。

「真剣勝負」がキャメルクラッチで決着がつくことはありえないからだ。

 2017年のわれわれは、それを読んで「あああ……」と思う。しかし当時、同じようにその試合を見ていた私はそんなことにはまったく気がつかなかった。

【次ページ】 表紙が前田でなくスーパー・タイガーである理由とは。

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