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伊調馨、五輪4連覇の瞬間の思い。
「戦うのが怖いと初めて思った」 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAsami Enomoto/JMPA

posted2017/01/08 07:00

伊調馨、五輪4連覇の瞬間の思い。「戦うのが怖いと初めて思った」<Number Web> photograph by Asami Enomoto/JMPA

2回戦と準決勝はともに圧倒的な攻めを見せテクニカルフォール勝ち。決勝では粘り強く攻守の姿勢を貫き、逆転勝利。試合後「最後は(亡くなった)お母さんが助けてくれた」と発言。

決勝戦後の厳しすぎる“求道者”らしいコメント。

「金メダルだったことは満足です」

 だがそのあとに並んだのは、劇的な金メダルをつかんだあととは思えない言葉の数々だった。

「(自己採点は)試合は5点」

「選手として出直してこいという感じ」

 思えば、伊調はいつもそうだった。

 どれだけ好成績を残そうと、自分に不足している部分をあげ、レスリングが未完成であることを口にしてきた。

 言葉だけでなく、真摯に追求もしてきた。北京五輪後、男子の間で練習するようになると、今まで知らなかった技術に目を見張り、貪欲に自分のものにしようとした。トレーニング方法、身体の使い方、自分を高めるための努力を惜しまなかった。結果よりも、レスリングを高めていくことを、何よりも楽しんできた。

最後の言葉は「練習ですか? したいです」。

 最後の逆転劇を生んだ場面で見せた切り返しには、腰を落とし、巧みかつ細かなポジション移動があった。磨いてきた技術がそこに集約されていた。まるで求道者のようにレスリングを極めようとしてきた伊調ならではの2ポイントだった。

 試合後の厳しすぎる言葉の数々もまた、求道者のそれであった。

「やっぱりレスリングは難しいです。心技体のスポーツなのだと思いました。だからこそやりがいがあります」

 そしてこんな言葉で結んだ。

「練習ですか? したいです」

 それもまた、伊調らしかった。

(2016年夏/Number特別増刊号「伊調馨 初めて感じた戦う怖さ」より)

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