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王会長が認めた剛腕・山田大樹。
SB在籍10年目、崖っ縁の一手。 

text by

田尻耕太郎

田尻耕太郎Kotaro Tajiri

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2016/11/24 07:00

王会長が認めた剛腕・山田大樹。SB在籍10年目、崖っ縁の一手。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

今季の登板で山田は腕が下がり気味のフォームで投げていた。王会長が評価した剛腕は、オーバースローでこそ輝く。

「上げたら、上げっ放し。上から叩け!」の助言。

 話を聞けば、それも納得だ。

「佐藤(義則一軍投手コーチ)さんにアドバイスを貰いながら勉強しています。とにかく『(手を)上げたら、上げっ放しや。そして上から叩け!』と言われるので、その通りにやっています」

 大きく胸を張るワインドアップ投法。体を横に向け右足を上げる際も、手の位置は顔の高さだ。そこからマウンドの傾斜を利用して、重力に体を預けるように体重移動をするイメージ。投げに行く肘の位置は高く、左耳のすぐ横を通過させる。

 もし肘の位置が下がってしまうと、左腕が縮こまって回旋してしまうからだ。そうなるとホームベースの近くでボールを離すことが出来なくなってしまう。

「フォームのバランスやタイミングがばっちり合うと、自分の最大出力を発揮したボールを投げられるイメージが出来上がるんです。手応えはあります。来年は常時145キロ以上出せるように、しっかり仕上げていきたいです」

育成ドラフト3年目、プロ生活を繋ぎとめた152キロ。

 山田は、本来とんでもない力を隠し持っている投手だ。

 軟投派と先述したが、じつはプロ3年目に最速152キロを記録している。

「育成ドラフトで入団して3年目のシーズンでした。その前年に左肘を疲労骨折するなど、正直もうダメだと思っていた夏場に、突然あのスピードを出すことが出来たんです。理由は僕にもわからない。開き直りなのか、野球の神様のおかげなのか……。だってその後スピードは落ちちゃいましたから」

 ただ、あの152キロが、山田のプロ野球人生をつなげてくれた。

 王貞治球団会長の目に留まり育成ではあったが再契約を提示された。他球団からの誘いはあった。契約が失効となった午前0時に電話があり、具体的な条件提示もされた。しかも支配下登録での契約をもちかけられたのだ。

「でも、お断りしました。僕はまだホークスに何の恩返しも出来ていなかった。人間、義理と人情は通さなきゃでしょ」

 その翌年、ホークスでの支配下登録を勝ちとった。先発ローテにも定着し、'11年には日本シリーズ第5戦に先発して6回無失点と好投。パ・リーグの育成出身選手としては初の勝利投手として球史に名を刻んだこともあった。

【次ページ】 もはや崖っぷち。「中継ぎだって僕はかまわない」

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