今日も世界は走っているBACK NUMBER

青学・一色恭志はなぜ涙したのか。
出雲駅伝で見せた最高学年の絆。 

text by

金哲彦

金哲彦Tetsuhiko Kin

PROFILE

photograph byToshihiro Kitagawa/Aflo

posted2016/10/18 08:00

青学・一色恭志はなぜ涙したのか。出雲駅伝で見せた最高学年の絆。<Number Web> photograph by Toshihiro Kitagawa/Aflo

茂木(左)から2位でタスキを受け取った安藤(右)は、区間新の走りを見せ、トップで一色につないだ。

2年時は箱根のアンカー、3年時は補欠にも入れず。

 茂木と安藤は4年生だが、これまで層が厚い青学で出番は多くなかった。茂木は大学1年で全日本大学駅伝のメンバーに選ばれたが、区間12位。その後は今回の出雲まで、駅伝メンバー入りしていない。

 5区の安藤は、箱根初優勝のアンカーでテープを切ったヒーローだ。

「優勝を機に人生が変わった」というコメントからも、当時の華やかな様子がうかがえる。しかし3年生だった昨季は、16人のメンバーにさえ選ばれなかった。前年のヒーローが、翌年は補欠にさえ入れなかったのだ。

 プロ野球で言えば二軍落ち。選手として一度勝ち得たプライドをズタズタにされるような屈辱を味わったことだろう。

 つまり一色を除く2人の4年生は苦労人ということだ。

 そして、這い上がってきた選手の気持ちは強い。

 5区の安藤は、残り1kmを切って東海大の三上嵩斗に一度引き離された。ところが、あと200mというところから息を吹き返した。怖いくらいの意地で奇跡の逆転を見せ、トップでアンカーの一色にタスキを渡したのである。

駅伝のラスト数百mは、20秒の差がつく恐怖のエリア。

 駅伝のラスト1kmは本当に辛い。そして怖い。

 酸欠状態で視界が狭くなる状態の中で、強い気持ちでラストスパートができる選手と、苦しさに耐えきれずズルズルとスピードが落ちていく選手の差は、残り数百mで20秒くらいつくことがある。

 東洋大のスローガン“その1秒を削り出せ”という意味はここにある。安藤が三上を逆転できた原動力は、3年時補欠入りさえできなかった悔しさ、キャプテンとしての責任感、そして、これで競技を引退していく覚悟、4年生の連帯意識。さまざまなものが混じった強い気持ちだったと思う。

 一色は、安藤からタスキを受け取ると叫んだ。

「お前のおかげだ!」

 そう、安藤の意地で東海大を突き放し、結果、山梨学院との差が1分に開いた。

“後門の狼”は見えないところまで遠ざかった。

 一色の涙は、前回の箱根連覇からの1年間、3連覇というとてつもないプレッシャーを背負う4年生たちのストーリーを物語っている。男の涙の1粒1粒に、1つ1つの出来事や思いが映し出されているのだ。

BACK 1 2
一色恭志
青山学院大学

陸上の前後の記事

ページトップ