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『4継』の魅力は想いをつなぐこと。
駆け出したくなる青春陸上小説。 

text by

今井麻夕美

今井麻夕美Mayumi Imai

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photograph byWataru Sato

posted2016/10/02 08:00

『4継』の魅力は想いをつなぐこと。駆け出したくなる青春陸上小説。<Number Web> photograph by Wataru Sato

第一部「イチニツイテ」、第二部「ヨウイ」、第三部「ドン」。高校生の3年間は、濃い。

顧問がライバルにする宣戦布告もかっこいい。

 例えばリレーには2種類あって、4継(ヨンケイ)とよばれる4人×100mの400mリレー、そしてマイルとよばれる4人×400mの1600mリレーがある。4継の練習で新二が連にバトンを渡す場面。

〈俺が「ハイッ」と声を出して、連の腕がバトンを受けるために上がってから、バトンを渡す。連より先に俺が腕を上げてはいけない。〉

 声がまず先なのか! そして、言葉にするとこんな複雑な動作を、一瞬のスピードの中で行うことにも驚く。

 新二の陸上デビューは県大会の4継になった。そこで名門・鷲谷高校のエース仙波一也と同じ第一走者になる。怖気づく新二を尻目に、顧問の三輪は、ぬけぬけと宣戦布告する。「こいつらが三年になる時には、4継で鷲谷を抜きますよ」と。

ライバルに勝つというより、速さへの絶対的な憧れ。

 夏合宿、新人戦、そして鍛錬期とよばれる冬の苛酷なトレーニング。スプリンター同士であっても、それぞれの筋力や体力に合わせ、一人ひとり練習メニューが異なる。最終的な目標は皆同じ、「もっと速くなりたい」。ライバルに勝つためというより、速さへの絶対的な憧れに駆り立てられ、新二と連はひたむきに練習する。

 地道な努力を重ねても、一瞬で競技が終わる。そして数字によって競われる短距離走。三輪は「スプリントは残酷だ。でもこんな爽快なものはないな」と言う。

「速く走る」、これほどシンプルで明快な競技はない。しかし、速さというものに果てがないだけに、スプリンターたちはどこまでも追い続けなくてはならない。彼らはライバルである以上に、苦しさと喜びに満ちた遠い道のりを共に走る同志なのだ。

 100mや200mの時はライバルである新二と連は、4継の時には仲間として走る。〈やっぱ4継ね。一人で走るより面白いよ、絶対。ウチのチーム、いいしね。〉

 4継の面白さは、すなわち「つなぐ」ということかもしれない。バトンパスの技術だけではない。バトンをもらう時の加速が前走者への信頼から生まれたり、もしくはチャンスを託してくれた仲間であったり、過去に夢半ばでフィールドを去った先輩であったり、新二や連はさまざまな想いをその一瞬につないでいる。

【次ページ】 「人生は、世界は、リレーそのものだな」

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